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「ごめんなさい。松尾さんのこと、すごくいい人だなぁって思うんだけど、なんていうか、良いお友達なんですよね」
これで何度目の撃沈だろう。しかもいつも同じセリフでフラれるんだ。
「うん、いいんだ! ありがとう」
本当はいいわけないじゃないか! 今日会ったばかりとはいえ、合コンの三時間+二次会の二時間、俺は本気でぶつかってたんだぞ⁈
彼女の背中を見送りながら、頭を抱えてしゃがみ込む。あーあ、今日も失恋か〜。俺の運命の恋はどこに転がってるのかなぁ。
* * * *
松尾総馬は、隣の席に座って黙々と仕事をしている後輩の篠田恭介を、無言のままじっと見ていた。
篠田は視線を感じたのか、目線は上げずに、少しイラッとしたようにため息をつく。
「なんですか、松尾さん。言いたいことがあるならはっきり言ってくれますか?」
気付いてもらえたことが嬉しかったのか、にたっと笑ってから体を完全に篠田の方に向き直る。
「なぁ、合コンの極意って何だと思う⁈」
「……知りませんよ。そんなこと、自分で考えてくださいよ」
「もうずっと考えてるんだよ! でもわからないからお前に聞いてるんだろ?」
取り乱す総馬を呆れたように見てから、再びパソコンに視線を戻す。
「そういうのって男に聞くより、女性に聞いた方がいいんじゃないんですか?」
「何を言う。お前の合コン実績を知った上で相談してるんだろ?」
「俺は何もしないで普通にしてただけですって。どうせ松尾さんのことだから、場を盛り上げようとして、いろいろやったんでしょ?」
「な、何故それを……」
「大体想像つきますって。そのノリが許されるのは大学生までですよ。大人らしい合コン姿勢を考え直した方が良いんじゃないですか?」
図星だから何も言えない。黙り込んだ総馬を見て、篠田は口元に笑みを浮かべる。
「どうせ『松尾さんは良い人』って断られるパターン」
「そうなんだよ……。なんでいい人は恋愛対象にならないんだ?」
「そういう人がいいって女性だっているけど、松尾さんがそういう人を選ばないだけです。案外近くにいるかもしれないのに、気付かないことを人のせいにしてるだけでしょう」
「お前……俺のおかげで結婚出来たくせに、上から目線じゃん」
「それはそれ、これはこれです。俺も奥さんも、松尾さんには感謝してますよ」
篠田夫妻をくっつけたのは自分だと自負している総馬は、最後の一言を聞いてコロッと上機嫌になる。
「さっ、仕事しましょう。じゃないと残業ですよ。今日は日比野さんとオンラインゲームの日ですよね?」
「あっ、そうだった!」
篠田によって総馬は約束を思い出し、仕事に集中し始めた。
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