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総馬はゲーム画面を開いたまま、友人である日比野塔子が入ってくるのを待っていた。
同い年の彼女とは職場の取引先で出会って、何度か会ううちに話が弾み、同じゲームをプレイしていることで更に仲良くなった。
篠田夫妻を引き合わせるために、二人で力を合わせたこともあった。
日比野ちゃんは俺の言うことを笑ってくれるし、趣味が同じだから何を言っても引かない。初めて男女の友情ってあるんだなって思ったんだ。
その時、ようやく塔子が入ってきた。
『遅くなっちゃってごめんね〜』
明るい声が聞こえ、総馬は心が弾む。火曜日と金曜日の夜、彼女と過ごすこの時間が楽しみだった。
「大丈夫。珍しいね、日比野ちゃんが俺より遅いなんてさ」
『うーん……まぁちょっとね』
「何その含みのある言い方。何かあった?」
『実はさ、この間友達に男性を紹介されたんだけど、意外とグイグイくる感じの人でね〜。悪い人じゃないんだけど……なんかお断りするタイミングを逃しちゃって』
「えっ、紹介されたの? いつ? 聞いてないんだけど」
『ん? 確か先週だったかな。なんでもかんでも松尾さんに話すわけないじゃない』
笑い出す塔子の声を聞きながら、総馬は心の中がモヤモヤして言葉に詰まってしまう。
まぁ……そりゃそうだよな。俺たちはただのネトゲが趣味の友達。それから仕事で時々一緒になるくらいで、それ以上でもそれ以下でもない。
『よし、じゃあそろそろ始める?』
「そ、そうだな……」
総馬はふと我に返ると、両頬を叩いて椅子に座り直した。
* * * *
二人が好きなのは、事件の証拠を集めて犯人を探すという推理ゲームだった。
しかし今日は頭が働かない。日比野ちゃんがあんなこと言うから、気になって仕方がない。
『松尾さん? 今日調子悪くない?』
「えっ? そうかな?」
『もう今日はやめる? このままじゃ犯人見つからないし、また金曜日に続きをやればいいじゃない?』
「それはダメだ。俺の流儀に反する」
『一体どんな流儀よ?』
「一度やると言ったら、最後までやるという流儀!」
すると塔子はしばらく黙った後、クスクスと笑い出す。
『じゃあ今日はこのまま少しお喋りしない? 最近飲みに行けてなかったし、いつもの終わりの時間までこのまま話さない?』
塔子の提案に総馬は嬉しくなって、見えるわけがないのに大きく頷いた。
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