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 総馬が自分の想いを自覚した途端、塔子と連絡が取れなくなった。メッセージを送っても既読にならないし、電話をしても出てもらえない。  何より総馬に打撃を与えたのが、唯一塔子から届いたメッセージの内容だった。 『今夜予定が入っちゃったの。ごめんね。また来週の火曜日にね』  仕事中だというのに、机に突っ伏したまま動かなくなっている総馬の隣で、篠田は冷静に仕事を続ける。 「……篠田〜、『どうしたんですかぁ』とか心配してくれないわけ?」 「……あぁ、聞いて欲しかったんですか?」 「……お前、冷たいなぁ……智絵里ちゃんには甘々なくせに」 「当たり前じゃないですか。どうして妻以外の、しかも男に優しくしないといけないんですか。意味がわかりませんね」  そう言い放った後、篠田はゆっくりと総馬の方へ向き直る。 「何かあったんですか?」 「……日比野ちゃんと連絡が取れなくなった……」 「お二人ってそんなに連絡取り合ってたんですか?」 「まぁ一日置きくらいでメッセージのやり取りはしてたかな。あとはゲームする時にボイスチャットしたり」 「めちゃくちゃ仲良しじゃないですか。で、何があったんです?」  不思議そうに尋ねる篠田だったが、総馬自身も今の現状を理解しきれていなかった。  あの日、なんとなくお互いを褒め合って、その後すぐに回線を切った。でも今考えてみれば、すごく不自然な切り方だったかもしれない。  だって焦ったんだ。日比野ちゃんを好きだって自覚して、それがバレないように取り繕うので精一杯だった。 「俺さ、初対面の時に日比野ちゃんのことが気になってて、でもそれを越えて友達になっちゃったんだよ。なのに今更また日比野ちゃんへの想いを自覚して……」 「それってもしかして、日比野さんのこと……」 「い、言うな! 言うんじゃない! 恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだよ……」 「松尾さん、相変わらず乙女ですね。でも智絵里と再会した時に『友達から始まる恋なんていくらでもある』って俺に言ったの覚えてます? 正に今その言葉をそっくりそのままお返ししますよ」 「……そう言われると思ってたよ」 「それに、友達から付き合うのってなかなかいいですよ。今までの気楽な関係の中に新しい発見もあるし」  篠田はニヤッと笑うと、ポケットからスマホを取り出した。 「今日のゲームの約束、日比野さんにキャンセルされてませんか?」  総馬は目を見張る。 「なんでそれを……」 「智絵里からの情報、教えてあげてもいいですけど」 「な、何かあるのか⁈」  被せるように返事をしたため、篠田は思わず吹き出してしまった。 「実は今日、日比野さんデートだそうです。まぁ智絵里が言うには『断りきれなかったデート』みたいですけどね」  その時、総馬の頭にあの日の言葉が蘇る。 『実はさ、この間友達に男性を紹介されたんだけど、意外とグイグイくる感じの人でね〜。悪い人じゃないんだけど……なんかお断りするタイミングを逃しちゃって』 「篠田……俺はどうするのが正解なんだ? もし俺が連れ戻したりしたら、日比野ちゃんには迷惑だったりしないか?」 「さぁ……それは松尾さん次第じゃないですか? 日比野さんは、今まで松尾さんが告白してきた女性とは違う気もしますけどね」 「……そんなことして、フラれて、大事な友達を失ったらどうしよう……」  いつになく弱気な総馬の背中を、篠田は勢いよく叩く。 「いつまで乙女なんですか。そろそろ男らしいところを見せたらどうですか」  篠田に喝を入れられ、総馬はようやく目が覚めた。日比野ちゃんにだけ弱気になってどうする! 俺は合コンに行ったら必ず告白する男じゃないか! 「お前本当にいい奴だな……パパになっても俺のこと見捨てないでくれよ」  篠田は驚いたように口をパクパクさせている。  どうやら日比野ちゃんの予想は当たっていたみたいだ。  総馬は自身に喝を入れるように頬を叩くと、残業にならないように仕事に集中した。  
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