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4
仕事を定時でしっかりと終えた総馬は、烈火の如く会社を飛び出し、塔子が働くオフィスビルまで急ぐ。
日比野ちゃんはまだ中にいるのだろうか。それとももう遅かった? 祈るような気持ちで辺りを見渡すと、横断歩道を渡った先で、スーツの男性に塔子が頭を下げているのが見える。
日比野ちゃん! しかし赤信号のため、停止を余儀なくされる。
早く変われ……早く変われ……!
ようやく信号が青に変わると同時に、総馬は塔子の元へと走り出した。
「日比野ちゃん!」
「あれっ? 松尾さん?」
横断歩道を渡り切った総馬の目に飛び込んできたのは、驚いたように彼を見ている塔子の姿だった。
「えっ……今男がいたよね……?」
「あぁ、見てた? 実は今日、この間話していた人に食事に誘われていたんだ。でもやっぱり違う気がしたから、当日で申し訳ないけどってお断りしたところ」
それを聞いて、総馬は力が抜けたようにしゃがみ込む。
「良かった……間に合った……なんかホッとしちゃったよ……」
デートだからか、珍しくワンピースを着ていた塔子もしゃがむと、上目遣いで総馬の顔を覗き込む。
「……どうして松尾さんがここにいるの?」
そう言われ、困ったように視線を動かした後、観念したように下を向いた。
「篠田に聞いたんだ。日比野ちゃんが今日デートだって……。迷惑かなって思ったんだけど、居ても立っても居られなくなって……」
「それで止めに来てくれたの?」
総馬は頷く。
「メッセージも既読にならないし、今日の約束もなくなっちゃったし……」
「不安だった?」
「うん、もう日比野ちゃんは俺とは会いたくないのかなって思ったら、胸が苦しくなって……」
「……どう思ったの?」
「……すごく寂しかったよ。だから気づいたんだ。俺は日比野ちゃんがすごく好きだってことにさ」
「……!」
総馬は顔を上げるとギョッとした。塔子が涙を流していたのだ。
「ひ、日比野ちゃん⁈」
「……私、ずっと松尾さんにアプローチしてたんだよ。松尾さんは気付いてなかったと思うけど……」
「えっ、そうなの?」
「……もう無理かなって半ば諦めて、だから男の人を紹介してもらったのに……私のことキレイで優しくて調子に乗ったとか言うから、また諦められなくなっちゃったんじゃない……」
「ちょ、ちょっと待って! それってもしかして……?」
「押してダメだったから引いてみたの。だからメッセージも全部無視したし、連絡も取らなかった。これが最後の賭けだったのよ」
塔子の話を聞いて、総馬は思わず笑い出す。なんだ、俺たち両思いだったんだ。あんなに悩む必要もなかったじゃないか。
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