魔法使いのおとも猫

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可南美(かなみ)ちゃん、お誕生日おめでとう!」  段ボール箱を開けた私に対し、中に入っていたものがそう話しかけてきた。  ぴょこんとしたケモノ耳に、黒色に光るサラサラした毛並み。ものの正体は、黒い猫。  目の前で何が起きたんだろう。順を追って振り返ってみよう。  今日は私、宮本可南美の十回目の誕生日だ。  誕生日だけど家庭の事情でうちには私しかいなくて、なんとなく一人でぼんやりしていたところに、宅配便が届いたんだ。  宛先人は不明だったけど、『プレゼント在中 即開封』って書かれていたからとりあえず開けてみた。  そして、そこから出てきたのが黒い喋る猫さんだったってわけ。 「可南美ちゃん、十歳のお誕生日おめでとう」 「あ、どうもありがとう」 「僕の名前はコスモス。可南美ちゃんのためにここに派遣されたんだ。今日はよろしくお願いします!」 「うん。こちらこそよろしくね」 「……僕のこと、驚かないの?」  コスモスくんが困ったように首輪の付いた首をかしげている。  言われて気づいたけど、私ってば淡々としすぎてたのかも。 「あー……。最近、そういうサービスが流行ってるってネットで見たよ。あなた、魔法使いのおとも猫なんでしょ?」 「うおっ、よく知ってるね。ならば話は早い。そうそう、所有するより体験することが求められる現代にさっそうと現れた体感型エンターテインメント。魔法使いのおとも猫が夢見る君の元へやってきて、一日だけ魔法使いに変身することができるんだ!」  私の国では、人を不幸にする悪い魔法使いと、みんなを守る良い魔法使いが密かに争っていると以前から噂されていた。だけど最近になって悪い魔法使いの跡取りがいなくなったとかで魔法使いの争いがなくなって、残された魔法使いが食い扶持を探していたそうなんだ。  そこで始まったのが、魔法使いの体験サービス。  魔法使いになりたいって人はたくさんいるけど、かといって、修行とか揉め事に巻き込まれるのは嫌だとか、一日だけならなってみたいな、なんて気軽に楽しみたい人に向けて、おとも猫が送られてくるサービス。  ちなみにかなりお高いらしく、一日だけでもサラリーマンの年収くらいかかるんだって。
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