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「おっと、変身の前にお手紙も来ているよ」
コスモスくんがもこもこの手で一枚の便せんを手渡してきた。器用だね。
「なになに……。あ、お父さんからだ」
手紙の中身はこうだった。
『親愛なる可南美へ 十歳の誕生日おめでとう。お父さんは例によって当日は仕事で帰れそうもない。そこで今年は猫の手を借りることにした。そいつで可南美の夢を叶えてくれ。変なことに使ってくれぐれも猫に小判にならないように。 可南美が大好きな父より』
「上手いこと言うね、可南美ちゃんのお父様」
「……そうでもないと思うけど」
私の夢っていうのは、七歳の頃に作文で書いた将来の夢のことだと思う。あの頃は魔法使いになりたいと思っていたけど、今は昔。そんな前の夢なんて今ではどうってことないのに。
お父さんていつもそう。覚えているのは古いことばっかり。そんなことより今日くらいは家に帰ってきて欲しかったなぁ。
「仕事じゃ仕方ないか。それでコスモスくん。変身ポーズはどうやるの?」
「ポーズって?」
「変身する時のポーズだよ。魔法使いになる合図とか、変身した後のキメポーズとかお約束じゃん」
「あの……ポーズとか、そういうのはないんだけど」
「えっ?」
「可南美ちゃん、もしかしてノリノリだったり?」
「……そんなわけないでしょ。いいから早く魔法のやり方を教えてよ」
「フフ、分かった。これを使うんだ」
ニヤニヤ顔のコスモスくんが透明な石を渡してきた。
魔法の石……魔法石ってやつなのかな。ゴツゴツしてるけど透き通ってて綺麗。なんだか神秘的な感じ。
「そのまま石を掲げてみるんだ」
「こう?」
言われるがままに、私は石を高く掲げる。
すると石が光を帯びて、まばゆい光が私を包む。
暖かくって、少しくすぐったい。
光は次第に収まっていった。
「おお、可愛い。似合ってるよ可南美ちゃん!」
私は姿見の前に飛び出す。
とんがり帽子にロンググローブ、フリルの付いたワンピースと足元にはロングブーツ。
鏡の中には、薄紫で統一された魔法使いの衣装に身を包む私がいた。
コスプレじゃないんだよね、これ。
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