魔法使いのおとも猫

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「魔法使いの可南美ちゃんの誕生だ! さあ、石に願いを込めて。そうすれば魔法が使うことができる!」 「分かった。まずは飾りつけだね」    石を両手でぎゅっと握りしめる。  すると石から光が零れ出し、それに合わせて辺りの風景が変わる。  壁が白くなり、蛍光灯はシャンデリアに変わり、家庭用だったテーブルは縦に長くなる。  最後に天井がいっそう高くなって、辺りはまるでお城のようになった。 「その調子だよ可南美ちゃん」 「次はお料理だね」  私は再び石を握る。  テーブルの中心にホールケーキが現れ、それを囲むように色鮮やかなごちそうが並んだ。 「フライドチキンにステーキ、生ハムにローストビーフ。なんだかお肉が多いね」 「いいでしょ別に。好きなんだから」  あと必要なのはお客さんかな。まずは友達とか普段お世話になっている人でも呼ぼうかな。  ……って、あれ? 石がさっきより小さくなっているような。 「コスモスくん、これ」 「ややっ? まさか。もうこんなに石が小さくなっているとは」 「石が小さくなるとどうなるの?」 「石の大きさは残り使える魔法の量を表しているんだ。つまり、使えば使うほど石は小さくなるんだよ。だけど、可南美ちゃんに渡した手のひらサイズなら一日は持つはずなのに。そう思って今日は持ってきたんだけど」 「そうなんだ」 「多分、可南美ちゃんって魔法の才能が人一倍ないんだよ。だから無駄に力を消費しちゃうんだ。魔法使いの家に生まれなくて良かったね」  さっきから煽ってくるねこの猫。  一応、お客さんだよね私……。 「あと何回魔法を使えるの?」 「そうだね。その大きさならあと一回ってところかな」  一回か……。  色々試してみたかったけど、仕方ないか。  でもそうなると、一体誰を呼び出せば良いんだろう。   「コスモスくん、魔法を使えばどんな願いも叶えられるのかな」 「それは難しい。可南美ちゃんが使えるのは制限付きの魔法だから」 「制限って、やっぱり私の才能がないから?」 「可南美ちゃんの才能というより、体験サービスの問題だね。お金を払ったからと言って何でも出来たら色々とまずいでしょ? 物を出すくらいは簡単だけど、例えば、人を呼ぼうとしてもその本人が拒む限りはその場に呼び出すことは出来ないんだ」  なるほど。魔法も万能ってわけじゃないんだ。  確かに魔法で勝手に知らない場所に連れてこられたりしたら困るし、絶対嫌だと思う。  それなら―― 「私、決めた」  私は再び石に願いを込める。 「私の大切な人を呼び出して!」    石は光る。まぶしすぎる強烈な光だ。  今までにないくらいの輝きが部屋中を満たし、一瞬、何も見えなくなる。  コスモスくんの、耳の生えた丸っこい輪郭だけがかろうじて見える。  魔法の効果か、それとも私が緊張しているからか、少しの間部屋がしんと静まり返って、やがて光は収まっていった。  だけど、何も起きてはいない。部屋の中には私とコスモスくんがいるだけだ。 「誰も来ないね」  辺りを見渡し、コスモスくんはそう言った。  何かが変わった様子はどこにもない。 「ちなみに可南美ちゃんが呼び出そうとしたのは誰なの?」 「……お母さんだよ。もうずっと会えてないけど、魔法ならなんとかなるかなぁって思ってやってみたんだけど」 「まさか、可南美ちゃんのお母さんは……」 「ううん。そういうんじゃないよ。ただ、二年前にお母さんは家を出て行ったの。私が学校に行っている時に一人でね。あとでお父さんに聞いたんだけど、お母さんは他に好きな人ができたんだって」  魔法には制限があって、本人が拒む限りはその場に呼び出すことは出来ない。  ……そうだよね。急に呼んだら迷惑だよね。お母さんにだって都合があるんだ。  そう簡単に、来れるはずがない。  そうに決まってる。
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