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「可南美ちゃん……」
耳を垂れ下げたコスモスくんが、ぴょんと、私の肩に乗ってくる。
そして、寄り添うように顔をくっつけてきた。
私、猫って飼った事がなかったけど、ぬいぐるみと全然違うんだね。
もじゃもじゃでくすぐったくて、なんだかとっても暖かい。
「ごめんねコスモスくん。せっかく来てくれたのに変な感じになっちゃって」
「良いんだよ。僕は魔法使いのおとも猫だ。本当なら魔法の体験でみんなを楽しくさせなければいけないんだ。むしろ謝らなければいけないのは僕のほうだよ」
私はコスモスくんを抱きよせる。
手を開く形になったからか、それと同時にカランカランと何かが落ちた。
これは魔法の石だ。
「そうか。魔法は不発だったんだから石はなくならない。石が残っているんだから、魔法を使うことが可能なはずだよ」
コスモスくんが一瞬黙る。何かを考えているみたいに真剣な表情で。
そして、床に降りてこう、言った。
「可南美ちゃん、もしよければ魔法使いになってみない?」
「ええ?」
「ここまで知ったら僕は君を放ってはおけない。袖振り合うも多生の縁さ。才能はないかもしれないけど、魔法使いになればいつでも僕がそばにいるよ」
「そ、それはさすがにまずいんじゃ……」
ていうか、コスモスくんには待っているご主人の魔法使いがいるんだよね?
「ダメだよ。コスモスくんは元の場所に帰るべきだよ」
「そっかぁ、良い案だと思ったのに。残念だなぁ」
「それに、次に呼ぶ人は決まっているから」
「え、誰?」
私は石を拾い上げて、願いを込める。
そして、次の瞬間玄関からチャイムが鳴り響いた。
私とコスモスくんは玄関へと向かい、ドアを開ける。
すると、そこに立っていたのは、
「ただいま、可南美!」
仕事帰りのお父さんだった。
「おかえり、お父さん」
「なるほど、お父様だね」
「お、その恰好似合ってるぞ可南美。コスモスくんも来てるな。早速仲良くなったみたいだな」
「まぁね」
私は足元のコスモスくんに視線を移す。
コスモスくんは、へへっと笑顔で応えた。
「それにしても可南美、お父さんを呼ぶのが少し遅かったんじゃないか? もう少し早く呼び出してくれると思っていたんだぞ」
「もしかしてお父さん、仕事さぼりたくてコスモスくんを呼んだの?」
「半分正解。娘の誕生日当日に、いてもいなくても変わらない会議だからな。そりゃ魔法でも使って抜け出したくなるさ」
お父さんは、うんうん頷く。
横で見ていたコスモスくんは口を開けて呆れていた。
「うちのお父さんこういう人だから」
「へ、へぇ」
「さぁ、遅くなったがパーティを始めようじゃないか」
靴を脱いだお父さんが、私とコスモスくんを引っ張って部屋の中に連れて行く。
やれやれって感じだけど、私の気分はカラッとしていた。
「コスモスくん、ありがとう」
「え?」
「コスモスくんのおかげで、知りたかったことがよく分かった」
「可南美ちゃんはそれで大丈夫なの?」
「うん。今までは知りたいようで知りたくない怖くてどうしようもないことだったけど、分かっちゃえばどうってことない。それに、本当は今日、ひとりで過ごす予定だったんだよ。それなのにふたりも来てくれて、今はそれが嬉しい」
それを聞いてコスモスくんが、ふっと笑った。
「可南美ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「うん、今日は私の誕生日パーティへようこそ!」
おわり
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