遺言のつもりで

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「貴代さんの孫娘って?美代子さんの子どもですか?」 「ええ、水野理恵。今年、高校一年になったばかりよ。クラスの友だちの女子生徒二人と、お屋敷の見学をして話したいと言っている。きっと楽しい時間を過ごせると思うわ」 「女子高生がこの家へ来て、サイコパスの僕と話すというのか?」  洸太は信じられない提案に驚き、ナイフを棚の上に戻して絶句した。幼い頃は女の子だと思い込み、スカートを穿いて近所の女の子と遊びたくて喋った事はあるが、男性に目覚めてからは女性と話した事も話しかけられた事もない。 『想像しただけで、ドキドキして胸が張り裂けそうだった……』  思わず口を押さえて、喉まで上がってきた心臓を呑み込み、貴代から逃げるようによろよろと後退して自分の部屋へ向かう。 「後で日時は連絡するから、コウタさん。約束だよ。大人の男性として、迎えてあげてくださいね」  貴代は不安はあったものの、洸太の背中にそう投げかけて、大きく深呼吸をして剥製の並ぶ大広間を眺め回し、唯一生きている籠のインコに近寄り、「大丈夫かしら?」と喋りかけた。
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