エリーゼのために

　まだ十二歳の少年はピアノの天才で、プロすらも魅了してきた。母が大好きだったピアノは、母の死とともにトラウマになっていた。
　ーーもう彼はピアノを弾けない。
　誰もが彼は表舞台に姿は見せないと、そう思っていた。

　三月九日、ピアノのコンクールが開催されていた。そこに少年は颯爽と現れた。目の下には涙を拭った跡があり、微かに痩せ細っていた。
　それでも彼はもう一度ピアノの前に座った。

「ーーエリーゼのために」