カムイ岬の雪 二、

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カムイ岬の雪 二、

 彼は、落ち武者だった。  男は、鎌倉にある得宗家(とくそうけ)の命で、安房国から、蝦夷代官の元に仕えていた。  彼がいた安房国では、主君である上総(かずさ)氏が鎌倉に仕えるようになってからは、元々の勢力を誇っていたが、源頼朝と北条氏の手によって滅ぼされてしまった。  しかし彼は事前に北条氏に通じていた事や、主君の傍流であり縁が薄い事、政略結婚で彼の娘が北条に嫁いでいた事等を、得宗が鑑みてくれた事で危うく難を逃れることが出来た。    男は、それを恩義に感じてしまっていた。忠義と称して一族共に安房国を出、鎌倉で彼なりに仕えた。  彼としては、頼朝が亡くなり源氏が絶えた後の、北条氏による執権政治の中でなんとか生き延びてきたつもりだった。    だから北条氏でも直流である得宗からの、直々の勅命で────、  そちは、そこの代官の元に仕えるが良い。  ゆくゆくはお前には鎌倉に戻ってくる時には、約束された御家人として出世への道が開かれるであろう────。  その言葉を信じて、男は一族を連れて遥かな蝦夷にて、役職に就いた。  それが……、  蝦夷に仕えてから、数日もしないうちに夜襲に合ってしまったのだ。  早い話、騙し討ちだった。  得宗が、当時の蝦夷代官である安東(あんどう)氏と裏で示し合わせて、上総氏の生き残りであった男を、一族諸共に夜襲に掛けた。  男の一族すべて寝静まっていた時に、いきなり夜襲にあったのだからたまらない。あっという間に男達はは勿論、女子供までも全て安東氏の指揮の下に、討ち果たされてしまった。  夜襲の物音を聞いた男は、急ぎ太刀を持って応戦したが、焼け石に水だった。  暗い中数人で、襲い掛かってきた軍勢に刃を合わせたものの、酒盛りの余韻が残るなか炎上した館を逃げるので精一杯だった。
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