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カムイ岬の雪 五、
男は一瞬、またも前方から視線を感じた。
見ると、先ほどの狼がまたも男の方を見ていたのだ。
しばらく狼は、男の方をじっと見ていた。
「なんだこいつ……? 俺の方を何回も見て」
狼はしばらくして、男には興味は無くなってしまったとでも言うように、また前を向いて岬の方に向かって歩き出した。
狼の動きを見ていた男には、ある考えが浮かんでいた。
ひょっとして……お主、
ついてこい、と言ってるのか?
まあ、良い。
お主に付き合うてみようか。
本心では正直訳が分かっていないまま、男は狼に付いて岬に向かって歩いて行った。
ゴオォォォォゥ────ッ!
ゴオォォォォゥ────ッ!
岬に降る雪が更に強くなった。
吹雪になっていた。
狼も男も、雪と風で段々と歩みが遅くなっていた。
双方ともふらつきが酷くなっていた。
倒れそうになっている時もあった。
でも、狼も男もその足を止めようとしなかった。
やがて、岬の端に出た。
狼はまたも、男の方を向いた。気になっていた男は狼に問う。
「お前、何を見せたいのだ? 」
狼は、男の問いに答えるかのように、前を向いて────、
うおおおおぉぉぉぅぅぅ……っ!
うおおおおぉぉぉぅぅぅ……っ!
海に向かって遠吠えを上げた。
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