26人が本棚に入れています
本棚に追加
カムイ岬の雪 八、
うおおおおぉぉぉぅぅぅ……っ!
うおおおおぉぉぉぅぅぅ……っ!
再び狼は、雪が降る中で、張り裂けそうな遠吠えを上げていた。
泣き叫びのような、叫び。
それは遠吠えというより、号泣にも見えた。
おおおおうううぅぅぅぅ────…………っ!!
おおおおうううぅぅぅぅ────…………っ!!
目の前に立つ岩には、もう誰もいなかった。
それでも、狼は海の向こうに向かって、遠吠えを上げ続ける。
また一人お前の方に、逝ったぞ。
何故に俺には、迎えを寄越してはくれぬのか。
生きる意味無き俺を、いつまで生かすのであろうか。
お前の元に、添い遂げたいのに────。
俺に迎えを、下され────。
狼の姿が、いつの間にか人の姿になっていた。
彼もやはり、崖の下に消えた者と同じく、髪も衣服もボロボロになっていた。
やはり、戦で逃げてきたのか全身傷だらけだった。
違うのは……。
武士とは違った、別の民族衣装である事。
彼は……、
この蝦夷で、倭から来た軍勢によって、彼を含んだ一族郎党全て殺されていたのだ。
この地で先祖から受け継いだだけなのに……。
儂等は、何故こんな責め苦に遭わねばならぬのかっ!
彼の魂だけが、この地に彷徨っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!