6人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「悪いの俺だけか!?ちょっとそっちの話題ばっかりしたのは事実だけど、だからってデートのために部活やお前との練習時間削るのとか嫌じゃん!もっと自分のために時間使ってくれとか女に言われたらキレるじゃん!?」
「そこまで言わせたお前も十分ひでぇよ!このテニス馬鹿!」
「違う!俺はテニス馬鹿で藍馬鹿だ!」
「ばっ」
真面目な顔で何をこっ恥ずかしいこと言ってるのか、こいつは!藍は思わずその頭のてっぺんをそはにあったティッシュ箱で叩いていた。ぱこーん!とそれらそれは素晴らしい音がする。
「ばっかじゃねぇの!?」
多少ぶっ叩いた方が、馬鹿も治るかもしれない。というか、今の大声が隣の部屋まで聞こえていたならどうしてくれよう。ただでさえ、想太ときたらテンプレートで声がでかいというのに。
「た、叩くことねーじゃん!」
頭を抑えながら、とにかく!と続ける想太。
「女と付き合って、デートよりお前の時間のが大事だって気づいたこと!お前がカノジョできておめでとうとか言いながら明らかにショック受けてるように見えたこと!そういうのいろいろあってそこから恋心ってやつを自覚してました以上!!」
「や、やけっぱちで言うなよ想太……!」
「やけっぱちにもなるっつーの!だって俺はこんだけ喋ってんのに、お前からはっきり聞いてーんだからな!」
ぐいっ!と想太が顔を近づけてくる。無駄にイケメンなそいつが、どこか泣きそうな、不安でいっぱいの顔で言うものだから。
「俺は藍が好きだ!藍は、俺と付き合ってくれんのか、どーなんだ!?」
好きだとは、言った。でもその先どうしたいかはまだ口にはしてない。それだけで、こいつはこんなにも迷子の子供のような、情けない姿になってしまう。自分だけが、そんな彼を見ることを許されているのだ。
そう思うと優越感と同時に、たまらなく愛しい気持ちになって――藍は。
「……当たり前だ、このばーか!」
自分達の関係は少なくとも当分、大して変わることもなさそうだ。その先があったとしても、望むのはそれこそもっと先でいいだろう。
君が好き。一緒にいられて、笑い会えるだけでいい。
今はこれ以上の幸せなんて、きっと世界のどこを探してもありはしないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!