はじまり Side流明

1/1
前へ
/8ページ
次へ

はじまり Side流明

今日は俺の家で集まって遊ぶことになっている。この前、4人で遊ぶために買ったパーティゲームが目的だ。 まぁ用意とかもすぐ出来るし、もう少し寝ていてもいいだr「流明〜!来たよ〜!!」 「はぁ!?まだ9時だが!?」 まぁ…そんな気はしていたが。夜兎は家が近いからこんな感じで家に襲来してくることも結構ある。(具体的に言うと数軒隣の家。要するにむっちゃ近い。)俺にだってプライバシーがあるんだが… 「あ〜…昼飯までには一旦家に帰れよ。」 「やだ!作って!」 ………はぁ。こいつに料理させるのも無理な話だし、仕方ないか… 夜兎は「チョコを作ろう!」と言ってキッチンから包丁を持ってきたくらいには料理しないからな。 「はいはい、作りますよ。いや、それはそれとしてなんの用事だ?」 夜兎は自信満々に「皆より先に練習して未史をバカにする!」と宣言した。 「バカなのはお前だよ。絶対に使わせねーからな。俺もやってねぇのに。」 と言うと今度は不満そうな顔で本を読み始めた。 いや、本持ってくるくらいなら家にいろよ。 その後は練習にならない程度にゲームの確認をしたり、面倒だったので適当にカップラーメン作ったりしたが、約束の時間の10分前に瑠璃が来た。 「お邪魔しま〜す!」 「あぁ、瑠璃。夜兎はもう来てるから部屋で待っててくれ。」 「了解!!」 瑠璃は軽快な返事と共に俺の部屋に向かっていった。 さてと、菓子と飲み物でも用意しときますかね。 そして俺がキッチンに向かおうとした時、未史が来た。 「未史。もう皆来てるから部屋で待ってろ。」 「あいよ〜」という気の抜けた返事をして未史は部屋に向かっていった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「やっぱり二人とも早いなぁ。そんなに会いたかったのか?」 「い、いや、暇だったから来ただけだよ?」 「私も家が近いからってだけで未史君の思ってるようなことじゃないし。」 「あれ?二人ともお互いに会いたがってると思ったんだけど不仲か〜?それとも愛しのを思い浮かべちゃったとか?」 あ〜愉快愉快。俺は別に流明なんて一言も言ってないしな〜 「何言ってるの未史君。わたしたちは仲良いよ?」 え、えっと…瑠璃さん?あの…その謎の威圧感は…… 「うん。仲良く…やる。」 おい夜兎。何をやる気だ。お、おいやめ…… ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 用意してきたものを持って部屋に入ると未史が倒れていた。手に持ったスマホには血文字のようなフォントで『犯人は2』と書いてある。…いや結構余裕だな。どうせいつものように二人をからかって制裁されただけだろう。 「よし、二人ともゲームやるぞ〜」 「「は〜い!!」」 「おい!心配しろ!あるいはツッコミくらい入れろ!」 あ、生き返った。 「あんな血文字作る余裕があったのによく言うな。」 そう言うと、未史は少し得意気な顔で 「いや、あれは事前に作ってきたが?」 とか言いやがった。お前ネタに命懸けすぎだろ!いや、まず二人に殺されるつもりで(うち)に来るなよ… その後は4人でゲームしたり、カラオケしたりして時間を過ごした。 まぁ30分に一回は未史が倒れていたり、声が高過ぎて不安定な歌声になる瑠璃が「やっぱ音痴だなぁ…」とか言って凹んだりしていたが、まぁいつものことだろう。(慣れ) あっという間に未史が帰る時間になり、それから少しすると、あとの二人も帰るようになった。 俺の家で遊ぶとき、いつも俺が瑠璃の家まで送っている。 俺たちはほぼ4人(夜兎は学年の関係でいないこともあるが)でいるため、瑠璃と二人になれる時間が意外と少ない。だから、瑠璃と二人で帰るこの時間はとても貴重だ。 帰りながら、やっぱり声に自身が無かった瑠璃を励ましたり、今日のことについて笑ったりしていた。 瑠璃の歌は、確かに上手とは言えないし実際、クラスの女子の一人には瑠璃が音痴だと言われたことがあった。ちなみに、そいつには軽い皮肉で返しておいた。個人的には瑠璃の声が好きだからいつまでも聞いてられるんだけどなぁ……そんなことを考えながら歩いていると、瑠璃の家に着いた。 「ありがと。じゃあな〜」 そう言った直後、 「ねぇ…私これから散歩するつもりなんだけど、一緒に来てくれない?」 と瑠璃が言ってきた。俺は混乱したがあまりの驚きに一周回って冷静になって 「ん〜…まぁ親にはメールでも送っとくか。別にいいよ。」と答えておいた。 瑠璃からこんなこと言うのはほとんど無いんだけど…どうしたんだ?しかし俺にとっては最高の機会だからもちろん断らない。 それから二人で散歩に行った。特に変わったことはない。瑠璃でも歌いやすそうなキーが高い歌を紹介したり、学校の話もしたりした。散歩道を歩いていると昔、二人でよく歩いていたことを思い出した。あの木々に囲まれた暗い道を、前日にホラー映画を見た瑠璃が怖がっていたのも、あの橋の下で川遊びをしていて、びしょ濡れになった瑠璃を見て、目のやり場に困ったこともよく覚えている。中学生になってからは歩くことは無かったが昔と変わらない風景には懐かしさを感じた。 ただ瑠璃が「身長差カップルに憧れる」(俺たちの身長差は20cmくらい)とか「昔さぁ、私たちが付き合ってるって言われてたときあったよね〜」とかドキドキする話題がいつもより多かったのは辛かった… 散歩なのにランニングより心拍数が高くなっていた気がするくらいだ。 そして俺たちは瑠璃の家の前に帰ってきた。 長いような、短いような、不思議な時間だった。 「お疲れ〜ごめんね付き合わせちゃって。」 「別にいいよ。帰っても暇だし。それじゃあな。」 そう言って踵を返した時、 「私ね、好きな人がいるんだ…」 唐突な予想外の言葉が聞こえた。頭の中が一瞬で真っ白になった。空っぽになった頭が、大きな不安と小さな期待に塗り潰されてから瑠璃に振り向いた。 瑠璃はうつむいて俺に人差し指を向けていた。俺は呼吸も思考も忘れて、ただ瑠璃を見ていた。 「俺も…ずっと好き…」 なんのひねりも無いつまらない言葉だなと自嘲しながら絞り出した言葉に、それでも瑠璃は俺を見て笑ってくれた。その時の、不安を消し去ってしまうような瑠璃の笑顔は、死ぬまで忘れないだろう。 瑠璃に言わせた自分の不甲斐なさも、初恋が実った喜びも、今だけは胸にしまっておこう。 代わりにたった一言。 「また明日、会いたい。」 この緊張は明日の俺に託そう。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加