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期待されたから Side未史
「おべんきょ〜しよ!!」
唐突なメッセージのせいで俺は今日も自転車を漕いでいる。20分くらいはかかる道をこの三日間往復している。まぁ夜兎と会うための必要経費と考えればそこまで苦ではないが。
とはいえ、筋肉痛はごまかせない。いつもより5分くらいかかって、ようやく夜兎の家に着いた。チャイムを鳴らすと数秒で夜兎が出てきた。しかも俺と二人きりの時には珍しくオシャレをしている。
「ずいぶんとオシャレした早いお出迎えだな。昨日パジャマで引きこもってた奴とは大違いだ。」
いつもの調子で言った冗談が照れ隠しであるとバレないだろうか。
「みーくんを追い出して引きこもってあげてもいいけど?」
「………え?みーくんってもしかして俺のことか?」
あまりに突飛な呼び方だったから咄嗟に反応できなかった。誰にも呼ばれたことない呼び方なんだが…
「だって未史って呼びにくいじゃん。あと、私だけの呼び方って彼女らしいくて良いじゃん!」
ある意味夜兎らしい理由に苦笑しながら夜兎の部屋に入った。人の名前を呼びにくいって一蹴する所とか最高にこいつらしいわ。あと、部屋の中はすごく掃除と整頓されてた。(こっそり夜兎の枕の下を見ると今まであった流明の写真が無くなっていた。なんで知ってるかは聞くな。)
「来る前から思ってたけどお前、俺に教わること無いだろ。」
夜兎は成績は結構優秀だし、俺みたいに先生のヘイトを集めて難しい問題解かされるようなこともないだろうし。まぁ、挙手しない俺が、その日機嫌の悪かった先生に八つ当たりを受けただけだが。
「先生がなんか模試の過去問解いてこいってさ〜」
あぁ、確かにそんな時期だな。
「過去問は調べたら答え出てくるぞ。」
そう言うと露骨に夜兎は不機嫌になって
「みーくんに教えて欲しいの!」
とか可愛いことを言ってくる。
まぁそういうことらしいので一緒に解いてやった。一応俺の勉強にもなったしな。とりあえず1枚終わらせて休憩している時に突然
「ねぇ…みーくんはなんで2位なの?」
という質問を投げかけてきた。俺はその意図に気づかないフリをしてとぼけてみる。
「そりゃあ、流明みたいに頭良い奴が努力してたら勝てねぇだろ。俺は2位で精一杯だよ。」
「嘘つくな!じゃあいつもの勉強時間教えて」
「……3時間くらい」苦しい嘘だと自分でも思う。
「塾も行かずに宿題しかしてないの知ってるんだからね。
ねぇ、本当のことを教えて?」
いつもの弾むような声音がいつの間にか落ち着いた声に変わっていた。
はぁ…彼女様にはお見通しですか…
「逆に夜兎はなんで頑張ってるんだ?」
「それは…私はできるって自分でも皆も思ってるから。」
夜兎らしい。期待に応えるため。という答えすらも俺の期待通りで、なぜか安心した。
「俺も同じだよ。ただ期待されているのが俺じゃなくて流明なだけさ。流明が1位じゃないといけない。俺の1位は皆の期待を裏切るんだ。それに…努力する理由もないしな。」
初めて人に吐き出した本音。さらに言うと夜兎に弱音を吐いたことなんか無かったかもしれない。
数秒の沈黙は自分が言った言葉を反芻するには十分だった。
「じゃあ…次のテストで一位になったら…は……ハグしてあげる。私の彼氏がどれだけカッコいいか見せてみてよ。」
夜兎が顔を真っ赤にして、それでも俺の目を見て急にとんでもない爆弾を投げてきた。
困惑したが、それ以上に俺のために、自分の羞恥心と相談して考えてくれた夜兎の言葉に救われたような気になった。まともに話せるくらい落ち着いてからゆっくりと口を開く。
「確かに努力する理由も出来て、可愛い彼女に期待されたら、やるしかないな。絶対一位取ってやるから忘れるなよ。」
自分では落ち着いてから言ったつもりだが…まぁバレてるよな。自分でもそう思うほど俺の心は浮き足立っていた。
「そ、そんなに本気にならなくても…
あと可愛いとか急に言わないでよ…(小声)」
やっぱりバレてるよな…ちなみに俺は流明と違って鈍感系主人公では無いので夜兎の言葉もしっかり聞こえている。が、聞こえないフリをしといてやろう。
あんまりいじめると『やっぱハグしてあげない!!』とか言われかねないからな。
「いや、むしろ全教科90点以上とってキスもしてもらうからよろしく」
「はぁ!?誰もそんなこといってないんですけど!!」
「じゃあしてくれないのか?」
「………その時に考える。」
よし!俺の勝ち!
「絶対取るから。その時までに覚悟しとけよ!」
「がんばれ〜……はぁ…」
おい、お前が焚き付けておいて嫌そうにするな。
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