だって可愛いし… Side流明

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だって可愛いし… Side流明

少し時を戻して 「瑠璃、勉強教えて。」という瑠璃の言葉で俺の家に瑠璃が来ることになった。 ちなみに夜兎が未史を家に呼ぶことはほぼなかったが、瑠璃に関してはテスト期間の度に言われる。だからこの前の夜兎みたいに新しい服を買いに行ったり、俺も手伝わされるほど掃除したりするような事は俺はしない。 残念ながら瑠璃は頭が良いとは言い難いからな。いや、悪い訳ではないけど。俺たちのレベルが高過ぎるだけというのもあると思うし。 なんだかんだ瑠璃にも生徒会長としてのプライドがあるようで勉強は毎回頑張っている。俺と未史は二人で選挙管理委員を務めることで選挙から逃げたからな。そういう意味では瑠璃はとても強いと思う。よく勘違いされるんだが、決して瑠璃を身代わりにしたわけではない。もう一度言おう。決して瑠璃を身代わりにしたわけではない。 …まぁそんなことはどうでもいい。これまでも瑠璃を呼ぶときは緊張していたが今までとは違った関係だと意識すると恥ずかしさ……とは違うかもしれないが変な気持ちになる。 俺は未史とは違って変な本を隠す必要も無ければ、夜兎みたいに大量の乙女ゲームを倉庫に仕舞う作業をすることもない。だから特に問題は無いはずなのだが…何か忘れているのでは?と不安になってしまう。 そんな感じの浮ついた気持ちで瑠璃を待っていると 「流明〜!」と俺を呼ぶ声と扉の開く音が聞こえた。 「おっ、待ってたぜ。とりあえず部屋上がっとけよ。」 なるべく自然にはしたつもりだがそれでも話し方に違和感を感じる。少し心を落ち着かせつつ、キッチンで飲み物をとって自分の部屋に入る。 「…お前俺の部屋漁ったな?クッションが裏返しなんだが……あっ…」 ずっと心の奥にあった不安の正体が鮮明になる。部屋の中央においてある丸テーブルの上には、この前告白されたときに、手に持っていたスマホで俺が隠し撮りした瑠璃の写真が置いてあった。 あれは俺の学習机の上に飾ってあったものだ… 瑠璃の顔が赤いのは怒りからか、それとも羞恥心からか。 「話があるなら一応聞くけど?」 あっ、これは怒りですね。 「えっと…可愛かったから…つい…」 (いつもの癖で…)後半の言葉は胸にしまっておく。他のまでバレたら命が危ない。 「しかもさ、これ撮り慣れてるよね?他の写真あるなら見せて?」 こいつたまに鋭い時あるんだよな…黙っといて後からバレたら面倒だしな… 「俺の学習机の右の棚。下から二段目。」 観念した俺の自白を受けて、瑠璃が取り出したのは一冊のアルバム。俺が中1の頃から撮ってる瑠璃の写真が飾ってある。(半分くらいは勝手に撮った) 瑠璃は無言でアルバムをめくっていく。無言だけど顔はこれ以上ないくらい赤い。これも撮りたかったなぁ… 「……持って帰って捨てる。」 一通り見終わったらしい瑠璃がとんでもないことを言い出した。 「すみません瑠璃様どうか本当にこれだけは許してください!」 「即答!?そんな犯罪者みたいな言い方しても駄目!!」 犯罪者って…例えがひどいな…いや、盗撮だから犯罪か…?これ以上は考えないようにしよう… 「お願いします!何でも言うこと聞くので!!」 「!!………」 瑠璃の中で『俺に言うことを聞かせられること』と『自分の写真』を天秤にかけていることがひしひしと伝わってくる。 「わかった。じゃ、じゃあき…きすして。」 よっしゃぁぁ!! 「分かりました!キスですね!」 ……ん? 「えっと…キスデスカ?」 瑠璃が無言で頷く。た…確かに未史と夜兎が約束したのは知ってるが……マジかよ…(余談だが、最近の未史は夜兎からの誘い以外の一切を断って自主学習に励んでるらしい。恐ろしいんだが…) 「わかったよ……目閉じてて。」 少し顔を近づける。赤くなった顔とそれ以上に紅い唇に視線が吸い寄せられて、思わずこれ以上近づくことを躊躇した。『このまま唇に指先を触れさせるだけでも、キスしたと思ってくれるのでは?』なんて最低な考えが浮かんだのも、高まった鼓動と体温のせいだろう。 だが瑠璃に言わせてばっかりの俺に、行動しないなんて許されないと自分に言い聞かせ、決意を固める。 ゆっくりと顔を近づける。この前調べたら、目を閉じると頭をぶつけたりしやすいらしい。だから目は開けたままにして、少しずつ、少しずつ近付いて… 触れる ずっとそうしていたように感じた。実際は5秒もそうしていなかったと思うけど。 「えへへ…初めて、盗られちゃった…」 すごく可愛いことを言う瑠璃にオレの心はときめいた。ときめいたのだが、 「だから変なこと意識しなくていいって言っただろ?『ピュアデビル』は参考にしたら駄目だって。確かにそんなセリフあったけど。」 そこまで言い切ってから俺は自分の過ちに気付く。 「私、読んじゃ駄目って言ったよね?」 さっきまでの甘い空気が凍りつく。ただ、その時の俺はどうやらその事に気づいていなかったらしい。 「『だって、仕方ないでしょ?ダメなことやっちゃうのが女の子だもん。』だったか?」 自分のやらかしたことに気付いたのはその後だった。背筋を凍らせるを感じ、瑠璃の表情をゆっくりと見る。 無言の笑み。それはかつて一度だけ見た表情。あの時の俺が密かに『ガチギレスマイル』と読んでいたソレが目の前にあった。 「えっと……ごめん…な…さい…」 「別にいいよ?私、そんなことで怒るほど器の小さい生徒会長じゃないし。」 あ、あの〜器の小さい生徒会長さん?全く表情が変わってないんですけど… 「……じゃ、じゃあ勉強始めるか!かなり遅れたが。」 こういう時は逃げるに限る。 「……あ、忘れた…」 すごく不服そうな態度で、持ってきたバッグを覗き込んだ瞬間に、なぜか青ざめた瑠璃が深刻そうに呟く。 「え?何を?」 「…持ってこようとした勉強道具。」 「えっと…ぜんぶ?」 こくりと弱々しく頷く瑠璃に対して言いたいことはたくさんあるが、一言でまとめると…「何しに来たんだよお前!?」 ちなみにこのあと普通にゲームして遊んだし、しっかりと瑠璃に許可取った上で撮影した。…まぁ動画を撮るとは一言も言ってないけど、写真とも言ってないしな。俺はただ「瑠璃さんお願いします(今日の所は)1つだけで良いので(動画)撮らせてください…」って言っただけだし… 今度こそバレたら何言われるか…いや、何させられるか分からないが、仕方ない。だってダメなことやっちゃうのが男の子だからな! 数日後、拭いきれない恐怖心に敗北し、カメラデータをすべて消したのは内緒だ。
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