小休止と次の話

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小休止と次の話

 なんだかんだ言ってレポートを書き上げ、校外学習はなんとか終了した。  オズワルドに戻ったら、もっと温厚な日常に戻るのかと思いきや、どこの学科も真冬の間の授業はさんざんなものだった。  そもそもオズワルドは魔法の学び舎であり、一般人もいるような授業内容ではない。時には夜に呼び出されて、授業を行うことだってある。  魔女学科の場合、真冬の夜中は格好の薬草摘みのシーズンであり、一、二年生はこぞって参加し、ブルブル震えながら薬草園に顔を出さなければいけなかった。  冬の寒さは相変わらず厳しいものの、薬草を摘むために真冬にブルブル震えながら夜中に薬草園に出かけたり、まだ日の光の薄い早朝に出かけたりするよりはマシだった。  その日も、魔女学科の学生たちは真夜中にローブの下に焼いた石をタオルでぐるぐる巻きにしたカイロを入れて、薬草を摘んでいた。 「真冬に薬草摘むって、意味あるんですか?」  ハサミを入れるたびに指がかじかみ、歯もガチガチと鳴る中、ルーサーは抗議のように言ってみると、先輩は「案外ある」と教えてくれた。 「薬草は摘む時間や季節により、効能が変わるというのは聞いたと思うけれど」 「はい」  魔女学の基礎教養として学ぶ話だ。一番薬効に効くのは早朝らしいが、魔法的に効くのは星や月の光を当てたものだし、それを黒魔法に使う場合は季節が悪ければ悪いほどいいというのは聞いた。魔女学も禁術法認定されかけたが、魔女学は魔法の基礎教養なため、ここが禁術法認定されたらほとんどの魔法が禁術法に制定されてしまうと、魔法使いたちが一斉に法律制定関係者をタコ殴りにして事なきを得た。数は暴力だ。 「真冬のものは、呪いにものすごく効く」 「……それって、禁術法に引っかかりませんか?」 「禁術法制定から魔法習いはじめた一般人は皆そう言うんだよな。呪いに効くものは、大概解呪にも効くものなんだから、持っているに越したことはないんだ。はい、続いて摘んだ摘んだ」 「はいっ」  こうして手を真っ赤にするほどかじかませ、歯がカチカチと鳴り響き、鼻から頬まで真っ赤にするほど大変な目に遭いながら薬草を摘み終えたら、それを摘んだ日付を書いた紙を貼り付けて、麻紐で縛って吊るしはじめる。こうして乾いたら、晴れて魔女学で使われる薬草になる。 「終わりました……」 「うん、ご苦労さん。それじゃあ、解散」  皆寒い寒いと言いながら寮に戻ると、寮母からお湯をもらって自室に帰って行く。ルーサーもお湯をもらって、それで麦湯を淹れはじめた。  夜に紅茶を飲むと目が冴えて眠れなくなってしまうため、冬の間は専ら麦湯か薬草茶だった。もっとも、ルーサーはまだ習った薬草の配合はできるものの、独自で薬草を配合することはできず、美味い薬草茶をつくることができないため、ほとんど麦湯を飲んでいた。 「ふう……今日も疲れた」  暖炉の薪を少し加え、どうにか冷え切った体を温めてから寝ようと試みるが、体が芯まで冷え切っているため、麦湯を飲んで暖炉で温めても、なかなか寝付くことができなかった。 (オズワルドの学生って、どうやって夜寝ているんだろう)  それは魔女学科が特殊なんだろうかとも思ったが、天文科や降霊科は夜中になにかを呼び出す授業を行っているらしいから、この季節でだってなにかしらやっているだろう。冷え切った体のままベッドに入っても、いまいち眠れないルーサーは、パチンパチンと薪の爆ぜる音を聞きながら、なんとかうつらうつらと押し寄せてきた眠気に身を任せているときだった。  バチンッと音がしたので、眠気が一瞬遮られてしまった。 「……なに?」  思わず窓の外を見ると、雷のような光が、窓の外で光って見える。 「キャー!!」  一緒に女学生の声も聞こえる。ルーサーはどうしたものかと考え込んだ。  魔法使いは基本的に頼まれない限り、物事に首を突っ込んではいけない。それがなにがどう作用するかわからないからだ。家系の魔法だったら門外不出だし、なにかの実験ならいい迷惑だし。  このところルーサーの前にやってくる厄介事の質がおかしくなっているので、首を突っ込むか否か考え込むのだが。  先程から聞こえる女学生の声には、覚えがあったのだ。  それでルーサーは黙って布団を頭を覆うほどすっぽりと被って眠ってしまうことにした。 (アルマにまた、拗ねられたらどうしよう……)  知っている声なのだから、ルーサーが嫌だ嫌だと思っていても、きっと巻き込まれてしまう。自分ひとりで解決できる問題ならばいいが、きっとルーサーには手に余ってしまうから、アルマの力を借りないといけなくなる。  今は食堂で女学生が好きなものを尋ね、できる限りアルマが拗ねないようにしなければと考えるのだった。  ルーサーは断れない性分な上、お人好しだ。きっと今回も断れないだろうことは自分でわかっていた。  もっとも。アルマはルーサーのそこを美徳としているのだが、本人が一番よくわかっていなかった。
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