5.バレンタイン狂騒曲

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ふと、袖の捲れ上がったアキの腕を見て、ハルは気付いた。 右腕の肘と、そこから手首までの間辺りに、赤紫の大きな(あざ)と擦り傷。 今回の撮影もアクションがあると言っていたので、さり気なく聞いてみた。 「あ〜この前 撮ったのはさ、5階建てのビルの屋上から、隣の3階の屋上に飛び移るやつかな」 簡単に言うが、隣接した建物と言えども3メートル程度は離れているらしい。 勿論、いざという時の為に、ワイヤーもつけてるらしいけど… 屋上で追手(おって)10人程と散々バトルを繰り広げ、そこから逃げる為に、隣のビルに飛び移る。 必死感を出す為に、優雅な着地ではなく、放り出されるように転がる着地…。 話を聞いてると、そんなシーンの繰り返しだという。 そりゃ、痣も擦り傷もできるか…。   アキ(いわ)く、全く敵を寄せ付けない完全無欠のヒーローにはあまり興味が湧かないらしい。 ほぼ対等の力でやり合い、自分も叩きのめされたりしながら、僅差の力で必死に相手を負かす役の方が、人間らしくてやり甲斐があるんだとか…。 …ドMか… 普段、俺にはドSのくせに…。 「すげぇなあ…でも気を付けろよ」 あまり心配すると、アキが気にして話さなくなるから、 そのくらいしか言葉はかけられなかった。 そんな話を思い出すと、もう無理には起こせない。 Tシャツの緩めの首元が、寝返りした時に伸びて肩がはだけた。 その肩にも痣が見えた。 ハルは、アキの背中を包むように隣に横たわると、Tシャツの首元を引っ張って直し、その肩にブランケットを掛けた。
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