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ふと、袖の捲れ上がったアキの腕を見て、ハルは気付いた。
右腕の肘と、そこから手首までの間辺りに、赤紫の大きな痣と擦り傷。
今回の撮影もアクションがあると言っていたので、さり気なく聞いてみた。
「あ〜この前 撮ったのはさ、5階建てのビルの屋上から、隣の3階の屋上に飛び移るやつかな」
簡単に言うが、隣接した建物と言えども3メートル程度は離れているらしい。
勿論、いざという時の為に、ワイヤーもつけてるらしいけど…
屋上で追手10人程と散々バトルを繰り広げ、そこから逃げる為に、隣のビルに飛び移る。
必死感を出す為に、優雅な着地ではなく、放り出されるように転がる着地…。
話を聞いてると、そんなシーンの繰り返しだという。
そりゃ、痣も擦り傷もできるか…。
アキ曰く、全く敵を寄せ付けない完全無欠のヒーローにはあまり興味が湧かないらしい。
ほぼ対等の力でやり合い、自分も叩きのめされたりしながら、僅差の力で必死に相手を負かす役の方が、人間らしくてやり甲斐があるんだとか…。
…ドMか…
普段、俺にはドSのくせに…。
「すげぇなあ…でも気を付けろよ」
あまり心配すると、アキが気にして話さなくなるから、
そのくらいしか言葉はかけられなかった。
そんな話を思い出すと、もう無理には起こせない。
Tシャツの緩めの首元が、寝返りした時に伸びて肩がはだけた。
その肩にも痣が見えた。
ハルは、アキの背中を包むように隣に横たわると、Tシャツの首元を引っ張って直し、その肩にブランケットを掛けた。
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