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「はい、これで終了となりまーす。藤崎陽人さん、ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました。お疲れ様でした!」
撮影が終わり、引き上げようとした時、スタッフの女性に声をかけられた。
「藤崎さん、お疲れ様でした。良かったら持って帰られます?」
小道具を並べた机の上に置かれたチューリップを指差している。
「綺麗ですよね〜どうしようかなぁ…」
「ホワイトデーですしね。良かったらどうぞ」
四十代くらいの雑誌編集スタッフのその女性は、少し意味深な笑顔を向ける。
…恋人にあげたら?とかそういう意味か?興味半分で探ってる?
笑顔がちょっと引きつった。
彼女とは、もう何度も一緒に仕事をしているので、遠慮なくからかわれてるのが分かる。
「さっき、アシスタントさんが照れてたでしょ?
ピンクのチューリップの花言葉、知ってます?」
「え?いえ…」
「『誠実な愛』しかも本数によって、また意味が違って…」
「へぇ〜?そうなんですか?」
「三本は『あなたを愛しています』だから彼女、仕事とは言え、ちょっと恥ずかしかったんだと思うわ。
私達もこれ見て知ったんですよ。
ほら、これ…」
ラッピングペーパーが解かれた上に置かれたチューリップの近くにあった紙を、彼女はハルに差し出す。
「あ〜なるほど…」
『チューリップ(ピンク)の花言葉
“ 誠実な愛 ”
1本…あなたが私の運命の人です
3本…あなたを愛しています
4本……』
ハルはそれに目を落とし、ハッとすると、途端に顔が綻んだ。
「あっ、やっぱりいいです。これは皆さんでどうぞ」
「そうですか?じゃ、今日頑張ってくれたみんなに配りますね。
藤崎さん、お陰で素敵な表紙と巻頭ページになりそうです。ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました。お疲れ様でした!」
ハルは挨拶をすると、急ぎ足で出口へと走った。
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