出産

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出産

年末の出産だった。 殆どの入院患者が、自宅で新年を迎えるために 外出許可を貰い一時帰宅し、 重篤患者以外は院内には、いなかった。 十分間隔の陣痛は、順調に訪れていた。 激しい痛みの幅は短くなるが、看護師によると 「なかなか降りてこないね。開いてないし」 という状態だった。 一晩中、激しい痛みに耐え 翌日の夜、耐えられなくなり分娩室に入った。 分娩室に入ると沢山の計測器を付けられた。 途端、部屋で訪れていた激しい痛みが 微弱なものに変わった。 それでも陣痛は続いていたので 看護師も深くは受け止めていなかった。 年末という事で、 医師も、患者の状態を確かめてから看護師に告げた 「何かあったら、自宅の方へ電話して」 と。 午前零時に近づく頃 痛みは、さらに微弱なものに変化し 最後に無くなり、私は少し眠ってしまった。 そして、看護師が見回り来てモニターを見て驚く。 「心拍数も下がってるし危ない。先生呼ばなきゃ」 慌てる看護師、状況が呑み込めないない私。 数分後、医師が、大きな音を立てて分別室に入ってくる。 モニターが吐き出したグラフを見て医師が言う 「こんなに弱くなる前に連絡してくれないと」 分娩台で開脚する私の状態を見て 「これは、吸引も出来ないな。  帝王切開する時間もない。  押し出すぞ…」 と大声で言う。 素人の私には、何をされるのかが分からなかった。 医師は分娩台の上に乗り、私に尻を向け それから両手で私の腹をぐっと押す。 一押しされると“ぬるっ”とした感触と共に 小さな産声が聞こえてきた。 「おお。ちゃんと泣いたな。良かった。  さて、俺はこれからスキーだ」 陽気な声で医師は、部屋を出ていった。 処置をしてくれる看護師は、 「苦しくって脱糞しちゃったの。  ちょっと体重減っちゃったね」 と言いながら、赤子を清め私の胸に置いた。 小さな頭に黒い毛が張り付いている。 (エイリアンって、出産をイメージしたものだったんだ) 外は凍える寒さでも、部屋は暖かい。 疲れ果てた私は、ストレッリャーに乗せられ個室に戻った。 部屋の補助ベッドで寝ていた夫は、 「産まれたんですか」 と眠い目をこすりながら言った。
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