ベンチ裏

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ベンチ裏

 スリーアウトになるのをベンチで確認した俺は、グローブとバットケースなどを両手に抱えベンチ裏の控室を通り抜け、一人、ロッカールームに用具を戻しに行った。 「情けない、やはり俺はもうお終りだ! このタイミングで代打を使うなら最初からスタメンになんか使わなきゃいいのに。いい恥をかかしやがって。それで一点でも取ったのかよ。あの監督め・・あぁ~もうやってられね!」 俺は、自分のロッカーの扉を腹立ち交じりに力いっぱい閉めてやった、とういうより叩きつけていた。 「シゲル、荒れてるな・・でも誰もが何度か味わう経験だよ、俺もそうだった。何本バッドをへし折ったことやら・・お前も来年で契約切れだろ?」 「は、はい、来年は二軍からのスタートを覚悟しています。」 俺は、綾野コーチの話に、正直な今の弱みを告白してしまった。 「お前の全盛期の頃は、よくホームランも打ってたよな、あれって狙って打ってたのか?」 「いいえ無心です。無心で来た球にくらいついた結果です。元々、自分でもホームランバッターだなんて、思ってもいなかったし。結果、ホームランになったことが殆どですよ」 「そうだったよな、ホームランって狙えば狙うほど打てないよね。でも去年あたりからのお前のバッティングを見ていると、俺にはホームランを狙ったスイングにしか見えないんだ。」 俺は今年も正直そんな気持ちでスイングしことなどはなかった。だから・・ 「綾野コーチ・・」 「いや最後まで聞けよ!お前はきっとそれを否定するだろうが、外から見ていると、よく分かるんだよ。」 「・・・・」 俺は綾野コーチの言葉にどのように反論すれば分かってもらえるか迷っていた。 「どうだ、今夜俺の家に来ないか、飯でも食いながら俺のビデオを見せてやる、お前を見ていると、なぜか俺が落ち込んでいた時と被ってしまうことがあってね。」
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