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がっかりした奴も居た
今シーズンこそ、レギュラーでファストを任せてもらえると、それは首脳陣だけではなく若井選手本人も手ごたえを感じていた。
だが、監督もキャンプはじめは「若井で行く」と言って置きながら古本の改造打撃を見れば、「そんなこと、俺は言って無い」の一点張り。
早々と若井にそれとなく伝えていたコーチもたまったものでは無い。
プロ野球って厳しい世界だ。でも実力の世界でもある。一般の企業なら、定年があり、その後釜には必ず若手が納まるのが普通である。
ところがその常識をひっくり返したのが古本のファスト復活だ。
打撃フォームを改造しただけではなく、右打ちだったのを左打ちにコンバート、しかも相手が左投手でも苦にしないという、スーパースイッチヒッターで復活したのだった。
プロスポーツ限らず、今年こそは、来年こそはと絶え間なく席が空く明日を狙っている選手が居るなか、唐突に高い契約金で他のチームから実力選手がやって来ては、多くの若者の夢を壊してしまうことも現実である。
お陰で若い選手は育たない。幾ら二軍で活躍しても一軍でプレーを続けないと、それは何のアリバイにもならない。
このような事例はプロスポーツ界だけのことでは無い。
今頃は、○○大学を出たからではなく、即一軍で働けるだけのスキルを求められるのがIT企業の常識でもある。
限られた一軍選手の背景には活躍できなかった無銘の選手の方が驚くほど多いのがプロスポーツの現実だ。
でも、人生捨てたもんでもない。登録抹消と言われようが地球から消え去る訳でも無く。たくましく次の人生で頑張っている。
少しばかり皆が知らない世界へ回り道をしただけであり、その人に合った個性と特技を生かせば、生きて行ける。中には起業して自らが社長(監督)に成っている人も居る。
そりゃ、今の世の中、生涯を保証してくれる仕事や企業なんて存在しないのはご承知の筈。だから戦力外通告を通知されたとて、ビビルことはない。
絶えず工夫をすることを人生の楽しみとすれば明日ぐらい簡単に生きられるさ。
明日になれば、また明日を生きればいい。
今月三日74歳になった人生経験たっぷりの爺の話も少しは訊いてみては。
―完―
本作品はフィクションです。登場する団体お呼び人物は全て架空のものといたします。
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