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「な、な、な…………」
血の気が引いていた小早川の青白い顔に、一気に赤みがさす。言うまでもなく、照れではない。怒りのせいだ。
「西山さん! あなたは何てことを言うんですかっ!」
ついに噴火してしまった。危険を感じた千佳は、両手で自分の肩を抱く。
「すいません……すいません……じゃ、小早川さんの片思い……」
「違うぅっ!」
「あれっ、小早川君、僕のことが好きだったの?」
「違うって言ってるでしょうが!」
失言に失言を重ねてしまったようだ。
「じゃあ、嫌いなんだね」
「嫌いじゃない、好きです。好きですけど、そういう好きじゃないんです! わかるでしょう! わかっててまたそうやってからかうんだから! ああもう、クソッ!」
小早川はデスクに拳を打ち付ける。
「女はこれだから! すぐ、惚れたはれたって、どうしてそういう話に持っていくんだ! 僕の周りの女は、いつも、そういう……!」
うめきながら小早川がデスクに伏せ、急におとなしくなる。またもや説明をするのはけろりとしている白崎だ。
「まるで女性蔑視みたいな発言を彼がしてしまったことは僕から謝るから、許してあげてね、西山さん。彼は上に姉が二人、下に妹が二人いて、苦労してきたんだよ。何かとからかわれてね。あとここのところ仕事が忙しくて、昨日も徹夜だったし、僕がいきなり初めて会ったばかりの女の人を家政婦として迎えたいなんて言うから、正気じゃいられなくなったみたいでね。僕の面倒をいつも見てくれていて、心労が耐えないんだ。狂信者っていうのもあるけど」
心労を与えている張本人が同情するように言う。
聞けば確かに気の毒ではある。小早川は神経質そうだし、大らかな白崎とは合わないところもあるだろう。
突っ伏していた小早川が、ゆっくりと体を起こす。
「……申し訳ありません、西山さん。疲れているみたいで、ご無礼を……僕はその、血統的に頭に血が昇りやすくて……」
「はあ、あの、気にしてませんから……」
げっそりしている小早川を責める気にはなれなかった。
乱れた横髪を手でなでつけ、小早川は大きく深呼吸をする。顔色がすこぶる悪いのは、寝不足と心労が原因なのかもしれない。
「それでですね……」
目頭を押さえると、小早川は手元の書類を取り上げた。
「どうなさいますか、西山さん。こちらからの話は大体以上になりますが」
どう、というのは無論、住み込み家政婦についてだろう。
「ど、どうしようかな……、条件は良いかな、とは思うんですけど」
「来るでしょう、西山さん。そうだよね!」
「先生はちょっと黙っていてもらっていいですか」
狂信者の割に、言う時はきっぱり崇拝対象に言う小早川は手のひらを白崎に向けて黙らせる。
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