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7、呪いの絵
* * *
「西山さん。あなたに荷物が届いてますよ」
小早川に呼ばれて首を傾げながら玄関へ向かった千佳は、目を向いた。
荷物というのが一抱えもある大きさで、やたらと平たかったからだ。見覚えがない。いや、どこかで見たような気も……。
「誰からだろう」
小早川が伝票に目をやる。
「差出人の欄には、山口卓也と書かれてありますけど。お知り合いじゃないんですか」
「卓也っ!?」
お知り合いだがお別れしたばかりの元彼である。口に手をあてながら視線をさまよわせる千佳を、小早川が不審そうに眺めている。
「ちなみに、着払いで届きましたが」
「ちゃく……」
どこまでセコい男なのだろう。小早川に平謝りをして代金を返した。
着払い以上に問題なのは、どうしてここの住所を知っているかだ。卓也には教えなかったはずだが、なんらかの手立てで調べたのだろうか。
荷物を持って部屋へと逃げ込み、包みを開けてみる。
すると現れたのは、一枚の油絵だった。千佳が白崎と出会った夜、発作的に持ち出した例の絵だ。
あの後、こんな気味の悪いものはいらないから、と卓也にくれてやったのだった。
ひたすら無言で絵を見ていたが、いくら考えてもこれを送りつけられる理由がわからない。手紙もなく、これだけだ。欲しいと言った覚えはないし、卓也は手放すのを拒否していたではないか。
――この絵は高かった。でも、もっと高く売れるらしい。投資だよ、一種の。
入手できた手腕などをそうやって自慢していた。真に受けていなかったのでうろ覚えだが。
はっきり言って金輪際連絡をしたくなかったのだが、真意を問うため、電話をかけてみることにした。
『……はい』
「もしもし、卓ちゃん? こっちに荷物が届いたんだけど、どういうつもり? 迷惑なんだけど。しかも、着払いって何なの?」
『ちゃんと受け取ったか?』
「受け取ったけど、私、こんな絵いらないよ」
『受け取ったならいいんだ。もうお前のもんだ』
不機嫌なのか、卓也の声は暗かった。
「何言ってるのよ! これは卓ちゃんのでしょ? いらないってば、返すよ」
『馬鹿! 受け取ったんだからお前のだ! 俺は二度と、その絵には触らないからな!』
突然声を荒げたので、びっくりして千佳はスマホを耳から離した。
「卓ちゃん?」
『その絵は呪われてるんだ。呪いの絵だって。村なんとかっていう呪われた画家が描いたんだ。俺、商店街の胡散臭いリサイクルショップでその話を聞いて、調べてみたら、そこそこ高い値段で売り買いされてるって知ったんだよ。呪いなんてアホくせぇって思ってさ。でも、その絵を手に入れてから悪いことばかり起きるんだ』
浮気がバレて家を追い出され、パチンコで負け、競馬でも大損。
自業自得では、と口をはさもうとする千佳の言葉を、卓也が遮る。
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