夢の瞬間

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夢の瞬間

『おめでとうございます!! あなたは10000人目のビジターです!!! ゴージャスでスペシャルなプレゼントをゲットするために、下のURLを今すぐクリック!!!」 とあるまとめサイトをひらくと、こんなものが出てきた。 これを世間は詐欺だという。URLをクリックしたらいけないと。 でも、俺は知っている。これは詐欺なんかじゃない。 これを詐欺だという連中は、当選した奴が羨ましくてそんなことを言うんだ。 俺はこの「〇〇人目」になってプレゼントをもらうのが夢だった。 小学生の頃、アニメで見た。デパートの入り口で祝われる利用客。そしてその側で羨ましげに見ている人々。 俺は選ばれしものになりたかった。 そして今、その夢が叶おうとしている。 他人がなんと言おうと関係ない。だってこれは詐欺ではないのだから。 URLとタップしようとして、自分の指が小さく震えていることに気付いた。 ……そうだよな。長年の夢が叶う瞬間がとうとうやってきたんだ。武者震いぐらいするよな。 呼吸を整えて正座をし、目の前にきちんと携帯を据えた。 いざ。 URLをタップするや否や、そこには住所やら電話番号やら個人情報を書き込む欄が表示された。 今まで気付かなかったが、リンクのプロトコルに「s」はついていなかった。 セキュリティが管理されていないサイトで、個人情報を入力することはいささか不安だ。 ……なぁに、夢を叶えるときには多少のリスクはつきものさ。 入力フォームを埋め、送信ボタンを押した。 これで、俺の夢は叶えられたんだ——。 今日はお祝いに晩御飯は寿司にしよう。 架空請求や勧誘電話がひっきりなしに来るようになったのは、それから1週間後のことだった。
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