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 結婚の報告を終えた真希子と和人は「じゃあわたしたちこれから婚約記念のディナー行くから。また連絡するね」とさっさとゲートから出ていってしまった。  遊園地よりも楽しい場所が、彼女たちにはまだまだいくらでもあるのだろう。 「……なんか、拍子抜けだな」 「ええ、ほんとに」   派手なデザインの帽子を脱ぎながら私たちは嘆息する。私たちは今日一日いったい何をしていたんだろうか。友達が幸せになったのだから、それはそれで良い話だけれど。 「さて、じゃあ俺たちはこれからどうする?」 「え、そりゃあ帰るでしょ」 「いやそっちじゃなくて」  そっちじゃない『これから』とは。  一瞬考えてすぐに、彼の真意に思い至った。  私たちの、これから。 「……え、ちょっと待って。いや、え?」 「それもありなんじゃないかって、あの二人見てたら思ってきてさ」 「でも今日は一夜限りの復活ライブだって」 「バンドとカップルは違うだろ」  ぬけぬけとそんなことを言う彼は何を提案しているかわかっているのだろうか。  一度千切れてしまったゴムを再生させようなんて、どれだけ大変なことか。 「でもゴムをまた一つにするにはもう一度高温で溶かして混ぜて、型にはめ込んで、すごい技術で固めなきゃいけないし」 「ん、ゴム?」  明は私の言っている意味を少しだけ考える素振りを見せて、結局「まあよくわかんないけど」と飲み込んだ。  そして彼は口の端を持ち上げてにやりと笑う。 「それって、頑張れば元に戻れるかもってこと?」  その笑顔を見て、どきりとした。  ほんのりと胸の内が熱を持つ。その温度にはどこか懐かしさを感じた。 「いやだからそういう意味じゃ」 「まあ立ち話もなんですし、乗ろうかあれ」  彼は私の言葉を遮って、出場ゲートに向かう家族連れとは逆方向に歩きだす。  その先には真希子たちの背中を見送ったアトラクションがあった。 「観覧車好きでしょ、朱音」  彼はもう一度だけ笑って、もう待機列もなくなった大観覧車へと歩いていく。追いかける必要はない。それもわかっていた。  それでも私の足は、彼の後ろをついていく。早足で彼の背中を追いかけながら、ぎゅっと胸の前で拳を握った。  あと十五分の間に、私はこの熱に答えを出せるだろうか。    わからない。わからないけれど。  たとえそれがどんな形であろうとも。  最後にはあんな風に虹色に笑えたらいいなと、そう思った。 (了)
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