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「解散したバンドがさ、たまにテレビで『一夜限りの復活ライブ!』みたいなことやるだろ」
「それがなに」
「いや、その時ってこういう気持ちなのかなって」
明はそう言いながら、抹茶アイスクリームに口をつける。その気持ちはわからないでもないような気がしたが、やっぱりいまいちわからなかった。
私たちの座るテーブルの脇を小さな男の子が駆け抜けていった。少し後から母親らしき人がその子の名前を呼びながら「一人で変なとこ行かないで!」と追いかけていく。
休日の遊園地は家族連れが多い。子供は水を与えられた魚のように生き生きと走り回り、親は水を奪われた植物のように萎びた顔をしている。
「バンドとカップルは違うでしょ」
「まあそうだけど、似てるかなって」
「バンドの解散とカップルの破局は別物じゃない」
「似たようなもんだよ。別に朱音とも喧嘩して別れたわけでもないし」
彼の言う通り、私たちの破局にはっきりとした原因があるとは言えなかった。強いて言えば、経年劣化という表現が正しい気がする。
恋愛関係は時として糸に例えられることがあるけれど、私はゴムのようなものだと思う。
繋がった新品のゴムは強い力を加えてもどこまでも伸びていく。
しかし時が経つにつれ、ゴムは冷えて固まり、伸縮性を失って、軽い力でも容易く千切れてしまうのだ。そしてもう二度と元には戻らない。
私たちは二人の関係を続けていく努力を、ゴムを冷やさない努力を怠ったのだ。
「まあなんにせよ」
コーンの先を口に放り込んだ明は包み紙を小さく畳んでポケットにしまう。
「たぶんバンドの復活も全員のわだかまりが完全に解消したわけじゃないと思うんだ。それでも集まったのは『一晩だけ、今まで応援し続けてくれたファンのために』ってことだと思う。なら俺たちと一緒だろ。――ほら、動いたぞ」
彼の視線を追うと、一組のカップルがテーブルを立ち上がったところだった。私は慌てて手元のミルクティーを飲み干す。
「俺たちも別に完全復活しなくていい。騙し騙しの一日限りの復活だ。昔、俺たちを応援してくれた恩人のために」
「……そうね」
私は紙コップを潰して立ち上がり、並んで歩いていくカップルの後ろ姿を見つめた。
今日、私たちはあのカップルの運命を断ち切る。そのために昔千切れてしまったゴムを無理矢理結んだのだ。
私の親友と、彼の親友を別れさせるために。
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