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里依が次に目を開けると、そこは自分の家のベッドの上だった。遮光1級のカーテンはいつも暗いが、カーテンレールの上や布下から微かに漏れ出る光から朝だとわかる。
異様に体が重く、肌が乾燥しているのかパリパリと嫌な感触がした。化粧を落としていないからだ。目を擦らないように気をつけながら洗面台にのっそりと歩いていく。
水色のラベルで統一されたボトル群からクレンジングオイルを手に取ると軽快なツープッシュを決める。
「なんでスーツで寝たんですかね! 私!」
鏡に映る自分の寝返りで皺になったスーツを見ながら洗顔を終えた。スーツを脱ぎつつ冷蔵庫の中から麦茶を注ぎ、お気に入りの座椅子に座る。そこではたと気がつく。
「え? なんで家の中に?」
昨日は、鍵がなくて家に入れなかったはずなのに。そこで里依はちゃぶ台の上に見慣れないものが置いてあることに気がついた。
竹の小さなバスケットだ。上に赤い布巾が掛けてあり、そのまた上には白い紙のメモが置いてあった。細くて流れるような字だ。
“鍵が開いていたので勝手に運ばせていただきました。これはサンドイッチです。良かったら食べてください。 305号室”
そして赤い布の下にはメモの通りサンドイッチが3つ入っていた。正方形の食パンを垂直にカットした長方形でやたらと断面が整っている。中身はアボカドサーモン、卵サラダとレタス、そしてまんまるいちごのデザートサンドだった。こぶし大の保冷剤が入っていたらしく、冷たさもちょうどいい。
「いや、親切過ぎでは!?!?」
さらに栄養バランスを考えてか野菜スムージーの紙パックまで入っている。至れり尽せりで逆にひいてしまうレベルだ。”ぐぅぅ”と昨夜からあまり固形物を食べていないお腹が主張する。あれだけ昨夜は限界を感じていたのに二日酔いになっていないのが幸いだ。
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