プロローグ

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「慧にプロポーズされて断るとは正気の沙汰とは思えません。一度病院に行かれて精密検査でも受けてみてはいかがでしょうか?」  慧に絶対の忠誠心を持ち、一言多いこの男は慧の秘書兼副社長である深山(みやま)(かえで)。  青光りするほどの黒い髪を七三に分け、銀縁眼鏡で切れ長の目を隠している。  優秀で常に冷静沈着な彼は毒を吐くのが得意である。 「もう、深山さんは黙っててください。とにかく私は結婚いたしません!」 「そんなぁ。僕は寿々羽(すずは)がいいの。寿々羽とじゃなきゃ結婚なんてしたくない」  あらまぁ。  可愛いじゃないですか。 「フリでいいのです。単なるフリで。それともあなたのような方が慧と本当に結婚できるとお思いですか?」  深山は目を細めてそう言った。  フリか。フリ。  それならまぁいっか。  この考えが大惨事を起すとはつゆ知らず、安請け合いをしてしまったのだが、それはもう少し話が進んでからのお話だ。  まずは私と慧が知り合った経緯から説明しよう。
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