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「アンタまた目覚ましかけ忘れたでしょっ。早く起きなさいっ」
がばっと布団が取り払われ、猫のように丸まったあたしの姿が白日のもとに曝け出された。
「これ以上寝坊するなら、スマホ代もう出さないよっ」
「……ごめんなさぁい」
ベッドの傍らに、くしゃくしゃになった布団を抱え込んだ母が鬼の形相で立っていた。あの顔、歴史の教科書で見た気がする。仏像なのにすごくいかつい顔してるんだな、と閉じそうな目をこすりながら思った記憶があるけど、何ていう像だったかな。
とにかく、普段は優しい母だけど、こうなったときはまったく敵わない。あたしはさながら教科書で見た何とかっていう仏像が踏んづけてる小さな鬼みたいなもので、母がその仏像。
温もりが残った敷布にぼさぼさの後ろ髪を引かれる思いで、あたしは寝室のドアを開けた。
家を出るとき、昇ったきたお日様に挨拶でもしますか。お勤めご苦労様です、ってね。
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