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 2年ぶりに見た彼は2年分大人びて、伸びた身長の分精悍さが増していた。  初日の僕の反応は明らかにおかしかったと思うけれど、彼は特に何も言わなかった。  でもまあ僕が彼の立場だったとして、わざわざ何か言うかと言えば言わないかなとも思った。  週に2回、彼の部屋で2人椅子を並べて数時間を過ごす。彼も他の生徒たちと同じように、途中に入れる休憩の度に僕の事を聞きたがった。  そういう質問に対する、相手を不機嫌にさせずにかわす方法なんてとっくに身に付いているはずだった。  でも彼が相手だといつものようにはいかなかった。  2年前には聞けなかったその声で話しかけられると、どうしても心臓が跳ねてしまう。しかも彼はパーソナルスペースの狭いタイプのようで、充分な大きさのあるデスクなのに気付けば肩が触れるほど距離を詰められている。  いつも友人たちの中心にいた彼は、人見知りしない、というか人懐こい性格で僕にもすぐに慣れた。  学校の先輩後輩ならこうはならないのかもしれないけれど、家庭教師と生徒は雇用関係だから僕は年上だけど強くは出られない。  だから彼は益々僕に馴れ馴れしく甘えてくるようになってきた。  これは、よくない。  図書館に背を向けたあの日に沈めた想いが、じわりと浮き上がってきてしまう。 「ねえ先生」  彼が横から僕を覗き込みながら言った。 「何?」  僕はわざと素っ気なく応える。 「今度の模試の結果が良かったら、ご褒美に映画に連れてってくださいよ」 「…僕なんかと行かなくても、他にいくらでも友達はいるだろう?」  教科書から目を上げずに応えた僕の顔を、彼が覗き込んでくる。無視し続ける事もできなくて、僕はチラリと彼の方を見た。  彼は上目遣いで僕を見て、テストのヤマが当たったみたいにニヤリと笑った。 「オレ達受験生ですよ?そんな簡単に誘えないですよ」  そう言った彼は甘えたような視線で僕を見てくる。  そんな目で見られたら逆らえない。  僕は唇を噛んだ。 「…わかったよ」  不本意を装って目を逸らし、僕はそう応えた。
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