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 近寄る程に全容が見えなくなるようなタワーマンション。  バイト先で渡された資料の住所を再び確認する。  つい、溜め息が出た。  気が重い。  なんで僕がここに来ているんだろう、とどうしても思ってしまう。  数日前の事である。僕はバイト先の事務所に呼び出された。僕のバイトは大学生にありがちな家庭教師である。 「新しい生徒さんが決まったから」  そう言ったスタッフに資料を渡された。 「え?でも僕高校生は・・・」  資料には高校3年生と書いてあった。僕の普段の受け持ちは中学生なので戸惑った。 「まあもう決まった事だから。それにほら、君の高校の後輩だよ」  資料に書かれている学校名を指差しながらスタッフが言った。そんな事を言われても、二つ下の後輩なんて部活の繋がりでもなければさっぱり分からない、というのが実情だと思う。しかも僕は帰宅部だったから「はあ」としか答えられなかった。  そして今日がその新しい派遣先の初日である。  大きな自動ドアを通ってエントランスのインターホンを押した。  程なくして「はい」と返事が聞こえた。  たぶん本人だな、と思った。  オートロックが開いて、エレベーターホールが見えた。上から数えた方が早い階で降りて、きょろきょろしながら部屋を探した。  2度目のインターホンを押す。  ガチャガチャと二つの鍵が開く音がした。  僕に高校生を教えられるんだろうか。  気が重い。  緊張で手のひらにじんわりと汗をかいている。  初回はたいていこんな感じだけれど、今回はいつも以上に鼓動が速い。  ドアが開いた。  第一印象大事!  自分にそう言い聞かせて僕は前を向いた。 「!!」  心臓が止まるかと思った。  僕は彼を知っていた。  正確には、2年前の彼を。
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