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「と、いったように利用していただきます」
館林と名乗る男は、VR内で表示されているスクリーンの電源を落とした。
「ひょっとして、主役は『幼い頃から病弱だけど実家が資産家』だったりするのか?」
俺の質問に、館林は「そういう場合もございます」と笑顔のまま答えた。
その個人情報は一体どこから得るのか…と突っ込みたかったが、自分の立場が悪くなる事を恐れてやめてしまった。
俺自身、男手一つで育てて貰い、裕福とは言えない暮らしをしてきた。最終学歴は中卒で…人生を楽しんだ事なんて1度もない。
長年勤めたアルバイト先から疲れて帰ってきた時、身に覚えのない小包が届いていた。胡散臭さ満載だったが、興味本位で装着し、今に至る。
「さっきのスクリーンの彼女、実在しているの?」
確か莉緒って言ったかな。
「はい、彼女は昨年ご利用いただいた方でございます。体調が思わしくなくご出演が中々難しいので、ご新規様へのご利用ガイドムービーとして使わせていただく事でわずかですが報酬をお支払いしております。あ、実在しているとはいえ、お顔は加工してありますよ。お名前も仮名です。アクションタイムに出演する際は、ご本人とは違うお顔ですし」
なんだ。結構好みの顔をしていたのに…。
残念に思うが、あらかじめ「ここは出会いの場ではありませんので」と釘を刺されている。
「初回は私がそばについて指導いたしますので、ご安心を。では『学園』をテーマにしたストーリーへのご出演、よろしくお願いします。今晩9時、お待ちいたします」
館林はお辞儀をし、そのまま闇に消えていった。
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