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めでたく二十歳の誕生日を迎えたというのに和希は憂鬱だった。二年制コンピューター専門学校の二年生。就職活動真っ只中。高校時代、特に何の夢も目標もなかったし、スポーツをやっていた訳でもない。四年間勉強したいものもなかったので大学には行かないと決めた。そして少しだけ興味のあったウェヴ関連の技術を学ぼうと専門学校に入った。しかし今ではそういった技術を持つ人材も溢れていて、就活は困難を極めていた。
慣れないスーツ姿、締められたネクタイを自宅の玄関を開けると同時に外す。台所から顔を出して、父親の和平がクスリと笑いながら「おかえり」と告げた。
「ケーキ買ってあるよ。ハタチの誕生日だからね、ちょっと奮発して大きめ」
嬉しそうに冷蔵庫を指差す。テーブルには和平自慢の手料理が並んでいる。父子家庭で磨かれた和平の料理の腕はなかなかだ。
「ハルさんもじき来るよ」
「うん…」
楽しそうに用意する和平を横目に見ながら和希は着替えのために自分の部屋に入った。
反抗期はとっくに過ぎている。
とにかく毎年誕生日はきっちりと祝いを欠かさない父に「うぜぇよ」とか言っていたのはもう数年前だ。ボロアパートの管理人ハルと一緒に、いつも盛大に祝ってくれる。
そしてもう一つ。この日は「いなくなった母の話をする日」と決まっていた。
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