Scene.1

6/10
前へ
/164ページ
次へ
 ヒカルの傷はすぐに癒えた。和平とハルに丁寧に礼を言って、自分のいた世界に戻るまでここに置いて欲しいと頭を下げた。 「私のいたあっちの世界では戦争が続いてるの」  さらりとヒカルが言う。和平は「え?」と見返した。そういえばヒカルが降って来た時迷彩服を着ていた事を思い出す。 「ここに来る前も戦闘に参加していて、急に引っぱられるような感覚がして、目の前が暗くなって…気がついたらここにいたの」  背中にかかる茶色の髪を後ろで一つに束ねて、彼女には大きすぎる和平のTシャツの袖を折って姿勢良く座りながら淡々と話す。 「私が産まれた時にはもう始まっていた戦争で、男も女もない、志願すれば兵士になれるの」 「大きな戦争なの?」  和平はヒカルが嘘をついているようには思えなくて、彼女の話にじっくり耳を傾けた。『有り得ること』とは言え、ヒカルも本当は別世界に来て戸惑って、不安だろうということが想像できたので、出来るだけ穏やかに接しようと決めたのだ。こういう話をさらりと受け入れてしまうのが、小説家の性だろうか? 「最初は国規模のものだったって軍の座学で習った。でも大昔にあった戦争のように占領軍が駐留するようなことはなくて、欲しい資源を搾取したらそれで終わりみたいなとこがあって」 「うん」  興味深そうに和平が頷く。ちゃんと耳を傾けてくれる和平に安心したのか、ヒカルはじっと和平を見つめ記憶を辿るように話しを続けた。 「敗戦国は政府が機能しなくなって、自治は都市や町、村単位で行われるようになっていったの。だけど荒廃した限られた土地で生きていくには、今度は隣町同士で闘わなければならなくなった」  まるで近未来SFの話を聞いているようだと和平は思った。つまりは国が崩壊し都市が独立したようなものか。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加