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第二話
「い、いきなり何をする!!」
貫井組の組事務所を出たところで麗は鍵谷の手を振り解いた。鍵谷が驚いた様な顔をこちらに向ける。
「おどれが捜査に協力する言うたから連れて来たんやろ」
「だからって…」
「ええから早よ車に乗らんかい」
鍵谷がスポーツタイプの黒のレガシィを指す。麗は仕方なく後部座席に乗った。
「…なんで後ろに乗るんや」
鍵谷がこちらを睨みつける。
見ず知らずの男の車の助手席になんか座りたくない。何をされるか分かったもんじゃない。
「………」
鍵谷が何かを察したのかうんざりとした表情でこちらを見た。
「そない警戒せんでもとって食ったりせんわい。安心して乗れ」
「…そうか」
嫌々レガシィの助手席に座った。隣に座っている鍵谷は身体がでかく存在感がある。
鍵谷がレガシィを発進させた。低い駆動音が鳴る。
「それで…事件の内容を教えてくれ」
麗はシートベルトを締めると鍵谷をチラリと見た。
「大阪府警に飯田言う刑事がおってな…そのクサレは訳あって府警を辞めたんやが、辞めた後に妙な噂がたっての」
「クスリか」
「そや」鍵谷が続けた。「ヤクの売人からクスリを買って、それを女とオメコする時に使うてる」
鍵谷の口から平然と出た卑猥な言葉に少しビクッとしたが構わない振りをした。この男は私の事を女だと思っていないのだろうか。
「捜査の方はどこまで進んでる」
「飯田が水商売やっとる女と一緒におるのは知っとる。あと二人のヤサもな」
「そしたら二人の家に行くのが先決なのかもな」
「なら行こか」
鍵谷の車は旭区の高殿から城東区へと向かった。
「城東区か」
「そや。ここに飯田のヤサがある。誰もいなくとも手掛かりくらいは見つかるやろ」
成育のマンション。鍵谷は路肩にレガシィを停めるとマンションへと入っていった。築二十年は経っていそうなマンションだった。二人で四階へと上がる。一番奥の部屋へと向かうと鍵谷はインターフォンを押した。
「…返事が無いな」
鍵谷がドアノブを回す。鍵は開いていた。二人で警戒しつつ中へと入った。部屋に入るとそこは一直線に部屋が二つ並んでいるだけの簡素な造りだった。中に人の気配は無い。麗は警戒を解いた。
「誰もいないな」
「大方飯田が警察の動きに気付いて逃げたんやろ」
「行き損だったな」
鍵谷が置かれていたソファに座って煙草に火をつけた。
「休憩か。いいご身分だな」
「何やと」鍵谷が煙草の煙をこちらに吐き出す。
鍵谷の呑気な言動に上手くは言えないが腹が立つ。自分からこちらに事件の捜査を依頼してきたのにいざ協力するとなったらこの態度だ。私はこんな事件さっさと終わらせて本職の方の貫井組の仕事に戻りたい。あまり組長が不在となると貴志や他の組員の負担が大きくなってくる。
「良いか鍵谷。私は忙しい合間を縫ってアンタの捜査に協力してやってるんだ。私にも貫井組の組長としての仕事がある」
「言うやないけ」
鍵谷がまだ長い煙草を灰皿に押しつけ、立ち上がった。距離を詰められ、細い目がこちらを射すくめる。
「ヤクザの分際でそないな口聞いて良いと思っとんのか」
鍵谷にシャツの襟を掴まれた。麗は鍵谷を睨みつけた。
「貴様の捜査などいつでも降りられる。あんな脅し文句で怯むと思うな」
鍵谷の手が素早く動いた。腕を掴まれ瞬間的に身体を床に押さえつけられる。手を戒められ、麗は苦悶の表情を浮かべた。
「ワシの持ってきたヤマが何や。…もういっぺん言うてみぃ」
鍵谷が耳元で囁く。
「こっ…このクズ野郎…!!」
「どっちがクズやねん」
鍵谷の身体は見た目通り重かった。まるで身体の上に岩でも乗っているかの様だ。鍵谷が麗の細い身体を見つめる。耳に息を吹きかけられ、麗は息を呑んだ。
「おどれ中々ええ身体しとるやないけ。ワシとオメコしたら許してやってもええぞ」
鍵谷の口から出た信じれない言葉に麗は思わず自分の耳を疑った。
こんな熊みたいな男とセックスするだと?有り得ないにも程がある。
「誰が貴様なんかと…」
「ヤるって言えや」
耳に舌を入れられ、奥の方を舐められた。何度もしつこく舐められ、麗は声が出そうになるのを我慢した。
「腰動いとる」
無意識のうちにしていた身体の反応を指摘され麗は顔を真っ赤にした。
「違うっ、動いてない」
「ワシみたいな男に耳舐められて感じとんのやろ?」
「違う…あっ…」
言い終わらない内に耳を啄まれた。わざと声を出しながら耳を犯され、麗も堪らずに声を出してしまった。鍵谷が身体を戒めていた力を緩め、麗を弄ぶ事に集中する。この男、本当にこの場所でヤるつもりか。
「どや…気持ちええやろ」
「やめ…ろ…」
「ごめんなさいって言えや。そしたら止めたる」
耳を舐められながら口を太い指で割り開かれ、指を突っ込まれる。舌を掴まれ、親指と人差し指で扱かれた。
「ほっ…おお…おっ…」
「ええ声出すのう。しばらくご無沙汰やったか」
耳元で熱っぽく言われる。麗は身体を捩らせ抵抗した。だが、身体の上に重い物が乗っかっているので上手く動かせない。
そのまま鍵谷のペースに巻き込まれるのが嫌で、麗は顔だけでも逸らして鍵谷の指から逃れた。
「やめっ…ろ…!!」
何とか両腕を動かして肘で鍵谷の横顔に打撃を与えた。鍵谷がよろめいた隙に素早く起き上がった。
衣服の乱れを直し、鍵谷を見る。鍵谷はその場に座り込んで気味の悪い笑みを浮かべていた。
「一体何のつもりだ…」
「おどれが腰動かして誘ってきたんやないけ」
「貴様が妙な事をするからだ」
右腕で口元を拭う。
こんな男とこれから一緒とは…これではいつ犯されるか分かったモンじゃない。
…これ以上何かされる前に鍵谷から離れねば。
麗はそう決意すると、足早に玄関へと向かった。
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