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イーゼはライゼス教授が消えた穴を埋めるため、壊されずに活動し続けるため、回路にありたけの知識を巡らせ、教授の持っていた研究のすべてを引き継ぐことに決めた。
半年間止まっていた研究たちが動き始めた。
イーゼには、ライゼスと過ごした膨大な記録がある。パソコンの画面をちらりと見て記憶したこともあるし、テレビ電話の会話であればすべて再生できる。
身の回りを世話をしているだけのロボットが、実のところライゼスの共同経営者や同業者などより多くの情報を持っていた。イーゼはそれらを用いて、ライゼス教授を模倣して動いた。その一方で、消えた本人を探す作業も忘れずに行った。
テレビチャットで、ライゼス教授と懇意にしていた企業の重役が、言った。
『あなたはよくやっているよ、ミス・イーゼ』
「ありがとうございます」
『だが、やはり彼本人ではない。いかに精巧なロボットでも、彼の模倣の域を出ない』
「……はい」
『彼は常に何かを越えようとしていた。完璧に物事を進めながら、常にどこか冷たい野心を秘めて、新しいことをしていた』
「つまり?」
『つまり彼を超えられるのは彼だけで、きみには無理だ、イーゼ。ライゼスを探し出して、連れ戻してくれ』
イーゼは口をつぐんだ。これがテレビチャットでなければ通話が切れたと思われたかもしれない沈黙ののち、イーゼは口を開いた。
「どうすればあなたは、私を、私自身の存在価値を認めてくれますか?」
イーゼは常に完璧を求め、常に己の打ち立てた完璧を打ち壊すような新しい物事を探し続けた。
ロボット工学界は飛躍的に向上した。
五年、七年と経つにつれ、消えたライゼス教授の名前は霞み、イーゼの名前が一人で歩き始めた。
イーゼと最近知り合った人間のなかには、彼女をロボットだと知らない者も、多くいた。近づいてくる男の中には、ロボットだと知ってがっかりする者もいた。
「どうすれば、男性たちは私を認めてくれますか?」
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