好きだけど逃げ出したから……

2/7
117人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
(かえで)3名様お願いします」 私は見映えよく盛り付けた天ぷらを仲居さんに託す。 仲居さんはそれと共に他の料理もお盆に乗せると、いそいそと楓の間へと急ぐ。 旅館の18時台の厨房は(まさ)に火の車。 私は、次から次へと天ぷらを揚げ、盛り付けていく。 それが終わると片付けが始まる。 男性ばかりの厨房。 力仕事も多いが、女だからできないと言われないよう、必死で頑張っている。 そうしてくたくたになるまで働いた後、旅館からすぐの所にある独身寮へと帰る。 寒っ! 冬至を終えたばかりの師走の夜は、山間(やまあい)ということもあり、耳が痛くなるほどに冷え込んでいる。 私は、コートの襟を立て、手をポケットに突っ込んで、歩き始めた。 料理人になるのは、私の幼い頃からの夢だった。 だから、高校を卒業すると、大学進学を勧める両親の反対を押し切って、私は、調理師の専門学校へと進学した。 ここは、学生時代、夏休みに住み込みでアルバイトをさせてもらってた旅館。 世話好きで気のいい女将さんがいる旅館で、訳あって、半年前から、またお世話になっている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!