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２
今世紀前半に起こったパンデミックで、オンラインでの勤務は急激に発展したと軍の教育過程で習った。
しかしいまだ定期的な出勤は存在する。
いざというときの業界の団結力を促すには、ある程度の顔見せは必要というのが最近の専門家の意見の主流だ。
国家の防衛を担っている軍なら尚のことらしい。
いずれにしろダニエルは毎日教会に出勤していた。こちらが自宅勤務をしたとしても、一日中一緒に過ごせたという訳ではない。
そして今は今で、出勤というものがあるのが有り難かった。
あのまま自宅で悶々とダニエルの残像を追っていたら、どうにかなりそうだ。
軍施設の入口に設置してある眼紋認証の小さなパネルに、アレクシスは軽く顔を向けた。
微かな機械音がし、数万箇所に及ぶチェックポイントが表示される。
腰の辺りの位置にある指紋、汗成分、遺伝子解析用のパネルが同時に反応する。
解析が終了するまではほんの二秒ほどだが、何気に建物周囲を見回した。
「パガーニ大尉」
真横から慌ただしい靴音がする。
建物前の階段を駆け足で昇り、ちょうど開いた扉から先に入ろうとしたのは、ジョシュア・ローズブレイド。同僚だ。
「お前……」
アレクシスは顔を顰めた。
自身の認証をやらんで他人の認証で中に入ろうとか。
「二秒がそんなに惜しいか」
カツカツと靴音を立てて後を追い、アレクシスは細身の背中に向けてそう咎めた。
淡い栗色の短髪に童顔気味の顔立ち、華奢な体型。
こうして見るとダニエルに特徴が似てるかとつい考えてしまい、いかんと顔を逸らす。
「出入口での認証にいちいち二秒ずつ掛けるとか。緊急事態の際はどうするんですかね」
ローズブレイドがそう言い肩を竦める。
「侵入者がノコノコ入り込むという緊急事態に備えているんだろう」
「今世紀初頭のサイバー黎明期ですら、スパイ活動の四十五パーセントはサイバー上だった。今や八十パーセント以上」
廊下を歩きながらローズブレイドは外套を脱いだ。
「わざわざ敵陣に入り込むスパイなんて、今時いますかね？」
「裏をかくのが諜報では？」
そうアレクシスは答えた。
自身がつい昨日まで裏をかかれまくっていたかも知れないのだが。そう考えてしまい、眉を寄せる。
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