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「夕べ追い詰めたスパイも、サイバー工作を辿って行ったらという感じだったでしょ?」
コツコツと歩を進めながらローズブレイドがそう言う。
アレクシスは特に答えなかった。
ここのところ続いていた軍の回線へのクラッキング。
端末を突き止めたら、そこから逃げ出したのがダニエルだった。
金髪にカトリックの司祭服。見慣れた細身の体。
遠目だったがまさかと思った。
「ちょうど良かった。夕べ、スパイの顔見てますよね?」
そう言いローズブレイドが振り返る。
顔を逸らしていて一瞬反応が遅れた。アレクシスは目を見開き同僚の顔を見た。
「パガーニ大尉が追って行ったと応援の中尉が言ってたけど。報告書作成しなきゃならないんで」
ああ……と呟いて、アレクシスは再び顔を逸らした。
「……顔は見ていない。外灯も碌になくて暗かったからな」
「そうですか」
ローズブレイドは外套を腕に掛け廊下をカツカツと進んだ。
背任行為だろうか。嫌な汗が出た。
とりあえず今だけだ。何日かの間にダニエルを見つけ出して、もう一度問い質して。
「血痕を採取してDNA解析に回しておいたんですが、外国人だとするとデータを検索する際に妨害されるかな」
ローズブレイドがそう呟く。
アレクシスは顔を強張らせた。
そういえばダニエルの国籍はどこなのか。何の疑いもなく自国の人間だと思っていたが、そうだとするとすぐに身元は割れる。
「血痕では……スパイ本人のものかどうか分からないのでは」
口元を緊張させつつアレクシスはそう答えた。
「例えば、逃げる途中に通行人と接触して怪我をさせたとか。必死で逃げるなら有り得ると思うが」
「成程」
ローズブレイドが呟く。
「同時刻に路上での負傷の報告は無かったか、そちらも確認してみますか」
「ああ……いや」
アレクシスは同僚の言葉を遮った。
自分が代わりに調べると言おうかと思ったが、一般の負傷者などでっち上げたら逆にダニエルの罪状を増やしてしまう。
かといって自身の血痕だとここでも言えば、生まれた時点で軍に遺伝子情報が全て揃っている立場上、一瞬で嘘がばれる。
「……軽症だと、わざわざ報告しない人間も多いからな」
「しかし不審な人間に怪我をさせられたとなったら、普通は保安局に通報しませんかね」
ローズブレイドがそう答える。
鑑定作業の部署に手を回さなくてはならないだろうか。
廊下を歩きながら、何をやっているんだとアレクシスは眉を寄せた。
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