生きててごめんなさい

1/3
前へ
/3ページ
次へ

生きててごめんなさい

目が覚めたら生き返っていた。 葬式の途中だった。感動的な弔辞の途中で、むくっと起き上がってしまったのでばつが悪かった。やばいと思って、また棺桶に首をひっこめたが遅かった。みなに引きずりだされてしまった。参列者も葬儀屋も、そして坊主も途方に暮れた。 僕は思わず「大変申し訳ない」と頭をさげた。 だが、頭を下げても事態が収拾するわけではない。この場をどうしたらいいか、誰もわかってない。右往も左往もできず、ただ唖然としてる。 僕も、ここまでのみなの努力を無駄にしてしまうことに途方にくれるばかりだ。流した涙とかそういうものが無駄になるのはまだよい。葬儀代も香典もみな無駄になってしまう。忙しいのに仕事を休んだひとには本当に申し訳ない。今の世の中、金と時間にはシビアである。 それに妻にしても、ここで生き返られても困るだろう。死亡保険や、遺族年金をあてにしているだろうし、僕にかくれてつきあってる男との今後の人生設計に狂いが生じるというものだ。だが、ほんとうに申し訳ないのだが不可抗力なのだ。生き返りたくて生き返ったわけではないのだから。 そんなことを考えてると、さすがは僕の親友だ。おもむろにピストルを取り出して、一発僕の額に弾丸をうちこんだ。 ナイス! 僕はそのまま棺桶にカムバックした。親友はさっきの読みかけの弔辞を何事もなかったかのように読み上げた。参列者も、僕の家族も、なんだかほっとしたような顔をして葬儀をつづけた。 「安らかに眠ってくれ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加