8人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ(小鳥遊 雫)
何もかもが、きっとイヤになってしまったのだろう。
そんな風に、私は私のことを考える。
時間はとっくに、お昼を通り過ぎていて、しなくてはいけない仕事は、もうなくなっていて、会社ではひたすら、私ではない私を、私は演じている。
私は別に、仕事が出来ないわけではない。
むしろ同期の人達の中では、それなりに出来る方だ。
信頼も、多分それなりにされている。
そんな風に、私は私が、他人からどんな風に見られているかを、なんとなくわかっている。
そしてそれをわかっているから、私はその人達の前では、そういう私でいなくてはならないのだ。
けれど私は、多分それが、とうとうイヤになってしまったのだろう......
だから私は、何か大切な用事があるわけでもないのに、上司に頭を下げて、会社を早退させてもらったのだ。
与えられていた仕事は全て完了していたし、体調が優れないと言えば、今のご時世、案外簡単に、納得してくれるそうだったので、私はありもしない熱と咳を演じて、皆よりも少し早く、会社を出た。
会社を出ると、時間は15時を少し回った辺りを指していた。
しかし空には、そんな時間帯を感じられない程に、鈍色の雨雲が広がっていて、それにとても、暗さを感じるほどだった。
そしてその暗さから、少しづつ、少しづつ、小さな雫が落ちてきて......
そしてそれらは、次第に『雨』と呼ぶのに、相応しい音をたてながら、私の独り言を搔き消してくれるのだ。
~あぁ、まるで私のようだ~
そんな風に私は呟く。
何が私で、何が私ではないのか、そういうことがちゃんと、わかっていない癖に......
卑怯な大人の私は、そんな風に、呟くのだ。
最初のコメントを投稿しよう!