私の譲り

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 そうして月日が流れ、大人になった今、私は父の葬式にいる。  父は急性心不全で眠るように亡くなったという。苦しまずに亡くなったことはせめてもの救いだった。それに父らしいなと思った。ただ急な話だったから、仕事の引き継ぎや葬式の準備でかなりバタバタしながら、実家へ向かう新幹線に乗り込むことになったけど。  お通夜は家族だけで行い、翌日に告別式を行った。父に兄弟姉妹はなく、人付き合いが多い方ではなかったから、母方の叔母や仲の良いご近所さん、数人の友人が参列しただけだった。けれども、父の最期を聞いた誰もがホッとしたような、何かを納得したような顔をしていたのが印象的だった。おそらく私も話を聞かされた時は同じ顔をしていたと思う。  式は慎ましやかに終わり、会社からもらった休暇に余裕があったから、実家の荷物整理を手伝うことにした。母は「どうせ独りだからゆっくりやるわ。」と言っていたけど、私もまだ父が死んだ実感が湧かなかった事もあり、父との思い出を探しに生まれ育った実家に帰った。
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