私の譲り

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「そっかぁ。」  私に言えたのはそんな言葉だった。他に言うべき言葉があるような気がしたけど思いつかなかった。私はどうなんだろう?寂しいのだろうか?父とはあまり話をする方ではなかった。私の記憶にも、置物のようにリビングで本を読んでいる姿か、「美味しいねぇ。」と言いながらご飯を食べる姿ぐらいしか思い出せなかった。最後に話した事は何だっけ?確か正月帰りだったから去年はどうだった、今年はどうするとか話したような気がする。そんな事しか思い出せない私は薄情なんだろうか? 「そうだ。お父さんの書斎はそのままにしようと思ってるの。ただ本棚の上の方に仕舞ってある本は落ちてきたら危ないから、そこだけは整理しようと思って。」  私が微妙な味のお菓子を食べているような顔をしながら考え事をしていると、私の雰囲気を察してか、話題を変えるように母が言った。私はそのまま母の優しさに乗っけてもらう事にした。 「じゃあ書斎の整理は私がやるよ。脚立か何かあったっけ?」  それに、このままここで考えていても何も進まないだろうから、せめて手だけでも動かすとしよう。ただその前にコーヒーを飲もう。甘くしたコーヒーを飲みながら母と取り留めのない話をした。向こうでの生活についてとか、最近何にハマっているとか。
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