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ひとしきり話したところで、私は母から一段だけのステップを受け取り、2階の書斎へと向かった。階段はギシリギシリと音を立てて私を歓迎していた。どうもありがとう。2階に上がり廊下の突き当たりが書斎だったはず。目指した扉を開けると驚くほど記憶と変わっていない光景が広がった。もしかしたら棚に並んでいる本が変わったのかもしれないが、父の蔵書はほとんどが専門書なので、元々興味がなかった私からすれば変わっていても分かりようがない。壁一面に敷き詰められた本棚と本を見て気が滅入りそうになり、上の段だけで良いんだと気を取り直して作業に取り掛かった。
しばらく作業に集中し、上にある本を取ってはパラパラ捲り、何となくの分類毎に下に積んでゆくというループを繰り返して、やっと棚の半分が整理できた。キリが良いから一旦休憩する事にしよう。階段の音色を聞きながら1階に下り、リビングへと向かった。リビングに着くと母がキッチンで作業していた。
「あら、お帰りなさい。作業は順調?」
「順調、順調。棚の半分は終わったよ。そっちは?」
「食器を整理しているところ。この際だから大きめなお皿は処分しようかと思って。誰かさんはあまり実家に帰らないようですし?」
チラッとこちらを非難するように見られたので、両手を上げて降参のポーズをしつつ、
「わかりましたよ。もう少しこまめに帰るようにしますよ。」
「この前も同じこと言ってたわよ。ほんと、集中すると周りが見えなくなるところはお父さん譲りね。」
「そうかな?」
「そうよ。」
確かに父は一度集中すると声を掛けるまで時間を忘れて没頭していた。私もその性格がないとは言えない。
「まぁ、そうかもね。」
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