私の譲り

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 そうだ。父の話というと本棚の整理中に思い出したことがあった。 「そういえば」 「なに?」 「お父さんは昔、天使が来るとかって言ってなかったけ?」 「あぁ、“12月の天使”ね。」  母は懐かしむように手元を眺めながらそう呟いた。 「そう12月に来る天使。子供の頃はいつ天使が来るんだろうって思ってたけど。いつになっても来ないから忘れてた。あの天使って何か知ってる?」 「知ってるわよ。私にも天使については良く話していたから。」  相変わらず手元を眺めていたので、何を見ているのかと少し体を傾けて覗いて見ると、父が愛用していた湯呑みを愛しそうに触れていた。私が学生の頃から使っていた湯呑みだ。よく今まで使い続けていたなと驚いたと同時にその湯呑みを見ていると、今も昔も変わらず父の手に収まっているような気がした。 「今更だけど天使ってなんだったの?」 「それは…そうね。書斎を整理すれば分かるかもしれないわね。」  湯呑みを定位置に戻し、納得したような様子の母はそんな事を言った。 「ほほう。黙って作業の続きをやれと?」 「そうじゃないわ。ただ、ここで答えを言ってしまうのが勿体ない気がして。別に急いでいる訳でもないのでしょう?」  それは確かにその通りだ。元々は父との思い出探しに来ているからちょうど良くもある。 「わかった。ちょっと探してみる。」 「それがいいわ。」 「まあ、もう少し休んでからね。」  母は呆れたように肩をすくめて「返事だけは良いのもお父さん譲りだわ。」と呟いていた。私はその呟きを聞きながら、ソファに身を沈めて少しだけ陽気を楽しんだ。
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