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「物音もたてずに何をしているかと思ったら…お父さんの真似?」
ハッと気付いたら母がドアから顔を覗かせていた。いつの間にか本を読むのに集中していたらしい。無意識に椅子にまで座って読んでいた。
「いや、本棚に小説を見つけて、お父さんが小説を読むイメージがなかったからどんなんだろうと思って読んでたら…」
「こうなっていたってこと?」
私はコクリと頷いた。母は少し呆れた、だけどほんのり嬉しそうな顔をしながら書斎に入ってきた。そして私が持っている本を見て
「あぁ、天使を見つけたのね。」
「天使?この小説がお父さんの天使なの?」
「そう。その小説が“お父さんの天使”なのよ。」
母はコクリと頷いた。
「そうなんだ。私はてっきり…」
「てっきり?」
「私がお父さんの天使なのかと思ってた。」
一瞬の間があり、それから母の明るげな笑い声が部屋に響いた。私は最初ぼけっとした顔をして母の顔を見たけど、その後急に恥ずかしくなったので怒った顔をして
「そんなに笑うことないじゃない…。」
と言うのが精一杯だった。
「ごめんなさい。とっても可愛いなと思って笑っちゃったわ。」
「ぶぅ。」
「ふふ。お父さんがそんなロマンティックな台詞を言うとは思わなくて、油断してたわ。」
くつくつと楽しそうに笑い続ける母を見て、ちょっとだけ安心した。父が居なくなっても笑うことができるんだ。ただ、今はそれどころではないくらいに恥ずかしいのだけれども。
「もういいでしょ!それよりもこれがお父さんの天使なの?」
そう言う私に母はもったいなさそうな顔をしてから頷いた。
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