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「そうよ。それがお父さんの天使。神様からの言葉を伝える遣いっていう意味で天使を使ってたみたいね。ここで言う神様は作者さんね。」
「神様の遣いか…。」
「ね?とってもお父さんっぽいでしょう?」
「まぁ確かに。」
自慢気に言う母の姿は少し幼く見えた。母は私が読んでいた小説を手に取り、こう続けた。
「この小説の作者さんはお父さんが学生の頃の先輩でね。その頃から文才が凄かったらしいわ。お父さんは特にこの小説のシリーズが好きで、それが発売されるのが決まって毎年12月だったのよ。」
「それで12月の天使ね。」
「そう。ただ、その作者さんも数年前に亡くなってしまって…その時からかお父さんも自分や私が死んだ時のことを意識し始めて、“やり残した事がないように”とか言って、いろんな所に一緒に出掛けたわ。」
まるで思い出に触れるような優しい手つきで本の表紙をなぞり、本を私に返した。
「だから…行ってしまったのは寂しいけれど。それでも覚悟はしていたから。」
「…そっかぁ。」
私は私が相槌を打ったのは“天使の事”なのかそれとも“父と母の事”なのか、良く分からなかった。ただ、胸の奥に疼くような感覚だけは確かに感じた。
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