acidity

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「いらっしゃいませー……」  お店に入って来た20代後半位の綺麗な女性の姿を見て、ナツさんが息を吞む。 「ナツ……」  その女性はいかにも都会で仕事をしていそうな、タイトなスカートを履いて紺のジャケットを羽織った人。肩下までの明るい髪色は毛先から15㎝くらいをランダムなカールに巻いていて、銀色のストーンが付いたピンク色のフレンチネイルをしている。食関係の仕事ではないんだな。  いかにも、オフィスで働いていそうな女の人だ。  鼻筋が通っていて、顎から首のラインが流れるような線を描く。こういう人を美人っていうのか、なんて一瞬で思った。 「ちょっと、話せない?」 「……コーヒーを飲みに来たんじゃないなら、営業時間外にしてくれるかな」  話し方の感じからして、ナツさんにとって親しい人の様だ。  込み入った話をしちゃうような、ちょっと特別な関係がありそうな……。 「わざわざ立ち寄って、そういう感じなの?」 「ここはお店だよ」  ナツさんが刺々しいのは何でなのだろうか。  女の人は、私と店内でもう一人だけいたお客さん、席に着いている40代くらいの男性を目に入れて頷いた。 「分かった、また、連絡する」  女の人はそう言って、颯爽とお店を出て行ってしまった。コツコツとハイヒールが地面を鳴らす。  私はその綺麗な後ろ姿に見惚れながら、同じ女性でもあんな人がいるんだなあと余韻に浸ってしまう。 「ごめんなさい、なんか雰囲気悪くしちゃって……」  ナツさんは気まずそうに私に謝った。
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